伝説の謝罪士(しゃざいし)
「謝罪には、魂がいるんだよ。腰の角度じゃない、心の角度だ」
そう語るのは、伝説の謝罪士・畠山である。
どこの企業にも所属せず、どこの顧客にも媚びず、ただただ人類の「ごめんなさい」に命をかける漢――通称「謝罪界の落ち武者」。
髪はうなじを超えてなびき、頭には大きな絆創膏。つねにジャージ姿。だが、土下座の姿勢だけはなぜか美しい。
そんな彼の元に、今朝、一本の電話が鳴った。
「お願いです、弊社の謝罪会見に出ていただけませんか!」
それは、タピオカ製造会社「黒珠」の社長・須永からだった。
曰く、「新製品“たぴたぴカレー味”が全国で下痢を引き起こした」という大事件が発生。しかもSNSでは「#たぴカレ戦争」「#おしりの危機」などのタグで大炎上中。
「これは……謝るしかあるまいな」
畠山は静かに立ち上がった。愛用のひざパッドを装着し、ポーチから「謝罪用スローガン」を握りしめる。
今日の一言は――
《全力の土下座には、土も草も泣く》
テレビ局が並ぶ記者会見場。
カメラのフラッシュが止まらない。
「このたびの騒動、誠に申し訳ありませんでした!」
須永社長が頭を下げた……が、角度は浅い。45度くらいだ。
観客のどよめき。
「なんか軽いな……」「膝つけないの?」「謝罪力ゼロじゃん」
会場がざわつくなか、畠山が立ち上がった。
「いま、土が怒っている」
「え……?」
「ここにあるのは“形式だけの頭下げ”! 大地と心をつなぐ“真謝”を見せてやる!」
そう言うや否や、畠山は全力の正座!
頭を地面にガン! とぶつける土下座!
さらに――
「この謝罪、三段構えだ!」
1段目:両手を地面につけ、正面土下座。
2段目:横向き土下座(関西風)
3段目:回転土下座(360度ひとまわりしながら「申し訳ございません」)
観客「おおおおおお!!」
記者「今、土が“浄化されている”と語った!」
SNSは騒然。
《#謝罪芸人じゃなかった》《#土が許した》《#三段活用謝罪》
その後、たぴカレ事件は収束。むしろ“健康に良かった”という奇跡の再分析がされ、製品は「お通じタピオカ」として逆にバカ売れ。
一方、畠山はというと……
次に呼ばれたのは、なんと「お詫びコンシェルジュ付きレストラン」の監修役だった。
メニューはすべて“謝罪がテーマ”。
・「すまぬステーキ(焼きすぎた言い訳付き)」
・「ごめんパフェ(アイスが落ちかけてる)」
・「真謝御膳(最初に店員が土下座)」
畠山は語る。
「謝罪ってのは、日常にこそあるもんだ。恋人の遅刻、友人のドタキャン、親への嘘。そこに“ちゃんとしたおじぎ”が入るだけで、人間関係ってのは……泣くほど改善する」
そう語る彼の横では、カップルが料理を運ばれながらスタッフに「お騒がせして、すみません」と深々とお辞儀され、照れ笑いを浮かべていた。
だが、畠山の戦いは続く。
彼の名刺には、こう記されている。
――謝罪士(しゃざいし)
――武器:頭
――スキル:許されるまで頭をあげない
誰もが避ける「ごめんなさい」の道を、今日も彼は全力疾走していく。
土が震えるその日まで――。
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