第五章『音楽会当日』(01)
【舞台裏の息合わせ】
控えスペースと化した廊下では、最後のチューニングと呼吸合わせが行われていた。
「こっち、もう少しマイク近づけた方がいいかな?」
坂本田一勤が、改造を加えた電子キーボードに小型スピーカーを取り付けながら言った。
「うるさくなりすぎたら困るから、最初は音量控えめに。調整は私が出す合図に合わせて」
指揮を務める岡島桃音が、細かい段取りを一つずつ確認していた。
彼女の指示は明確で速い。それでいて、誰に対しても目線を合わせ、言葉を丁寧に選ぶ。緊張していた生徒たちも、彼女の声に自然と背筋を伸ばした。
「大丈夫、大丈夫。ここまで来たんだもん」
森本川めりあが笑いながら、坂本の肩を叩く。「変な音出しても、それが今日の“らしさ”ってことにしちゃお!」
「お前それ、本番前の励ましじゃねーよ」
そう言いながらも笑っているのは桜井啓利。ティンパニのチューニングキーを持つ手は、驚くほど慎重だった。
「でも……楽しみにしてる人いるからな」
彼はポケットから一枚の手紙を出して見つめた。祖母からの応援メッセージだった。
いいなと思ったら応援しよう!
楽しんでいただけることが一番の喜びです。いつもご覧いただき、ありがとうございます!これからも、皆さんと一緒に素敵な時間を共有できるように、より一層努力していきます。