見出し画像

第75巻 高槻市:タカツキノカミの願い

 高槻城の跡地近く、
 うっそうと茂るクスノキの木陰に、ひっそりと立つ祠がある。

「ここが、タカツキノカミ……?」

 OLのそらは、スマホの地図を頼りにやってきた。
 転職に失敗し、失恋し、ついでに財布まで落とした。
 人生が「三連コンボ」でバッドエンド中だ。

「もうお願い……せめて、気持ちが軽くなる何か……」

 彼女が手を合わせると、ふわっと森の香りが漂い、
 ぼんやり現れたのは、
 草をまとったような、ぼさぼさ髪の青年の姿。

「よぉ~……なんか、呼ばれた気がして……気のせいかな?」

「いや、あなたです。お願い、神様でしょ?」

「あー……うん……。一応、高槻の神……。まぁ、ほぼニートだけど」

 この神様、
 のんびりゆったりした神対応で知られている。

 願いがあっても、

「それ、自然の流れに任せたほうが良くない?」

「え? いや、任せすぎじゃ……?」

「たとえば、“カレシほしい”って願ったら、
 “クマに追いかけられて山の民に助けられる”イベントを用意してみたよ」

「えっ、なにその展開……」

 タカツキノカミは、全力で自然に任せるタイプの神様である。

 宝くじが当たりますように!と願った人には、

「うん。じゃあ、毎朝クスノキにお辞儀しに来てね。
 あ、あとカエルにもあいさつ」

 と、3年続けた人に突然「おつりの間違いで50万円増えてた」事件が起きた。

「それもう……神の手じゃなくてレジのミスでは……?」

「うん、でも結果オーライでしょ?」

 そらは、言われた。

「そらちゃんさ、たぶん“いい感じに転ぶ”のが合ってるよ」

「“いい感じに転ぶ”?」

「うん、たとえば川に落ちて拾われるとか、カフェでコーヒーこぼされて出会うとか。
 何かあったら、こけることから始めてみな?」

「えっ、それ、助言として成り立ってる……?」

「あと、気が向いたら、ヨモギ団子作って持ってきて」

 なぜか、神様が欲しがるのは“ヨモギ団子”。

「お供えに欲しいの?」

「いや、普通に食べたい……っていうか、あれ食べると元気になるし」

 その日から、そらは毎週ヨモギ団子を作って祠に供えるようになった。

 最初は半信半疑だったが、
 ある日、団子を置いた帰りに「道に迷って」知らないカフェに入り、
 そこのマスターに、

「この前、君の作った団子食べたよ。懐かしい味だね」

 と声をかけられた。

 マスターは、かつてそらが転職に失敗した会社の“社食”をやっていた人だった。

 その縁で、今度はそのカフェの“副店長”として働くことに。

「なんでこう、人生が団子で回り始めるの……」

「ああ、それ、団子的成功ルートって言ってさ……」

「言ってないでしょ、そんなルート!」

 高槻の神様は、あくまで自然の摂理派。
 人の人生にがっつり介入することはない。
 だが、なにかがゆるく整っていく空気を作る。

「そういや、今の店の常連さん……最近、毎日“紙芝居”やってくれるんです。
 なんか元気になってくるし、笑えるし……」

「うん、あれね、昔、願い事に来た“元落語家のおじいちゃん”」

「まさかの伏線回収……」

 人生はうまくいかないことだらけ。
 でも、こけたとき、
 誰かの団子が、誰かの絵本が、誰かのやさしさが、
 じわりと効いてくる。

 そして、それが全部、
 クスノキの下でつながっているのだと、そらは気づいた。

 📌

 高槻の神様は、がんばるあなたに無理をさせません。
 ちょっと休んで、深呼吸して、
 団子でも食べて、また転んで……なんとかなります。


いいなと思ったら応援しよう!

Goldness 楽しんでいただけることが一番の喜びです。いつもご覧いただき、ありがとうございます!これからも、皆さんと一緒に素敵な時間を共有できるように、より一層努力していきます。