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第三章『修理の難関と工夫』(01)

【ティンパニと衝突】

桜井啓利は、図工室の隅でティンパニのヘッドに目を細めていた。新品のヤギ皮は高価で手が出せず、代用品の合成皮をどう張るかで悩んでいた。
「そこ、もう少し緩めた方が響くって。今のままだと音が詰まる」
アドバイスを口にしたのは、大西卓伸だった。見た目重視の彼は、ヘッドの表面の波打ちが気になって仕方なかった。
「違う。音は見た目じゃない。張り方には基本がある」
啓利は即座に突っぱねる。彼の表情は硬い。
「でも音、聞いてみた?鳴らす場所で全然違うじゃん。試してみた方が──」
「“試す”前に“理論”を理解しろよ」
その瞬間、周囲の空気がピンと張った。卓伸が眉をしかめ、机に手をついたときだった。
「ちょっとストップ」
黒崎明生が静かに二人の間に割って入った。クラリネットの部品を洗っていた手を拭きながら、冷静に続ける。
「啓利、君の言うことは理にかなってる。でも、卓伸の感覚も試す価値はあると思う。互いの案を10分ずつ試して、音を比べよう。客観的に、録音して」
二人は無言で頷いた。
明生はティンパニの録音を開始し、別の場所に座るとパソコンで記録をつけはじめた。
その静かな調停力に、大翔はノートにこう記した。
『衝突が起きた時、誰かが冷静に場を整えること。音よりもまず、人の耳と心を調律することが必要だった。』


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