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第120章 春日部市:カスカベノカミの願い

──願いは勢いよく、でもオチも勢いよく。

 春日部駅前の商店街「かすかべサンサン通り」には、一軒だけ、やけに元気な八百屋がある。朝から晩まで威勢のいい声が響き渡り、カスカベノカミはその屋根の上で寝転んでいた。

「……はっくしょん!」

 神様であっても、春の花粉には勝てない。くしゃみでバランスを崩し、神様は屋根から転げ落ちた。

 ドサッ。

「……いたっ……あ、すまんすまん」

 転がった先にいたのは、春日部高校の生徒・皇成だった。神様の姿は一般人には見えないが、彼には見えていた。なぜなら彼は先日「卒業後の進路に自信を持ちたい」と、神様に願ってしまったのだ。

「まさか神様が屋根から降ってくるとは思わなかったっす……」

「願いを叶えるには勢いが必要なんじゃ。な、八百屋見てみぃ。あの大根! いま特売や!」

「……僕の願いは大根じゃなくて進路なんだけど」

「進路なんてのはな、人生の特売品をどれだけ掴むかにかかっとる!」

「……詐欺っぽい……」

「信じんのか!? わしはカスカベノカミじゃぞ!」

「え、えぇ……じゃあ、この進路の相談、聞いてくれます?」

「もちろん! 全力で勢いよく応援する! お前はまず、寝ろ!」

「……は?」

「寝てないだろ、皇成。寝てから考えた方が進路って見えるぞ。これは神通力の統計や!」

 それっぽいが、何の根拠もない。

 そこへ、皇成のクラスメイトの紬希が通りがかった。顔にはくっきりと「寝起きです」と書いてある。

「……ねぇ、皇成……今朝、二度寝して遅刻してきたけどさ……うちの神様、めっちゃ元気だね」

「見えてるの!? 紬希も!?」

「うん。昨日、"もっと楽に生きたい"って願ったらさ、この神様が『寝ろ!』って言ってきた」

「やっぱ寝かせる方向なんだ……」

 そこへ、商店街の掲示板の前でうろうろする少年が現れた。カケル。三年生で、進学か就職か迷いに迷っている。

「やー、神様……俺、どっちが“成果出せる”んすかね?」

「よし、どっちも試してみよう! 今日は就職体験! 明日は大学に勝手に潜入だ!」

「えっ、そんなことできるの?」

「勢いが大事じゃ!春日部流や!」

「勢いの名のもとに無茶苦茶が横行してる……」

 だが、実行力こそ神の力である。次の瞬間、カスカベノカミはカケルを連れて商店街の「からあげ専門店」に突入。

「うちでバイト体験!?」

 店主が驚く間もなく、カケルは唐揚げを揚げていた。油が弾ける。「思ったより熱い!」とか言ってる場合ではない。

 一方その頃、皇成と紬希は、神様の置いていった神通力まみれの「願いスピーカー」を拾っていた。電源を入れると「勢いのある人生とは!?」というテーマで延々とカスカベノカミの自撮りVlogが再生される。

「これ……教育機関に使えないやつだよね」

「うん、完全にYouTuber神」

 そして夕方。商店街のベンチに、神様と三人の高校生が集まった。カケルはまだ唐揚げの香りがする。

「で、どうだったん?」

「……揚げるだけでこんなに達成感があるとは。就職、ありかも……」

「だろぉ? 成果ってのは、自分が“うまい!”って思った瞬間に出とるもんじゃ!」

「……つまり、自分で自分の唐揚げを褒められる人生が、いいってこと?」

「そうじゃ!」

「わかるような、わからんような……」

 そのとき、最年長の夏恵が登場した。生徒会長で判断力抜群。神様のことも既に把握済み。

「はいはい、みんな勢いだけじゃなくて冷静な判断も忘れないで」

「うっ、まともな人が来た……」

「商店街に勝手に貼った“就職体験受付中!”の張り紙、私が全部剥がしておいたから」

「うわぁ……助かる」

「神様、勢いもいいけど、ちょっとブレーキ覚えようか?」

「えー、わしの勢い、春日部名物じゃのに……」

「それ、誰にも認定されてないよ」

 その日、春日部の商店街では「願いを叶えるには勢いとツッコミが必要」と、やや謎の教訓が生まれた。

 カスカベノカミは今日も元気に叫ぶ。

「唐揚げは!熱いうちが!チャンスじゃあ!」

 ──進路も人生も、たぶんそんなもんかもしれない。


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