【bon44:愛媛県_伊予万歳と“間違ったツッコミ芸”】
愛媛県・松山市郊外。
今まさに「伊予万歳」のステージが始まろうとしていた。
「……で、“万歳”ってどういう意味なんだろ?」
ふみ香がつぶやくと、雄志郎が即答した。
「形式としては、二人組で進行する芸能。
一人がボケて、一人がツッコむような構造なんだが……」
その横で、雄政が小さく挙手。
「じゃあ俺、ツッコミ側やってみていい?」
「え? いきなり参加する気なの!?」
戸惑うふみ香を横目に、
ステージではすでに地元のペアが挨拶を始めていた。
「はい、え〜、今日も伊予の国から参りました〜」
「わたしが“ほっこり担当”、こちらが“バッサリ担当”」
「出た! ユニット制!」
観客は地元のおばちゃんたち。
その中に、何故かもう雄政が混ざってる。
「なんで!? いつのまに!?」
雄政はすました顔で、地元のおじさんに耳打ちされていた。
「おう兄ちゃん、テンポだけ合えば何言ってもウケるぞ」
「え、そんな仕組み!?」
伊予万歳の真骨頂――“雰囲気優先”がここに。
いざステージに上がった雄政、満面の笑顔で開口一番――
「いやぁ〜愛媛といえば、やっぱり“みかん風呂”ですよね!」
(※そんな文化はない)
「入らんわァァ!!」
地元ツッコミ職人が秒速で対応。
そのタイミングの良さに、拍手喝采。
「なんでそんな流れるようにツッコめるの!?」
ふみ香が驚いている間に、雄志郎が横で分析。
「……つまりこれは、ツッコミ芸の盆踊り版。
“正解”を競うのではなく、“成立”を楽しむんだな」
観客のおばあちゃんが、団扇でパンパンしながらにこやかに言った。
「笑いが取れたら勝ちやけん。
“ウケたもん勝ち”が伊予の流儀なんよ〜」
ステージ上の雄政はというと――
「さっき道後温泉でタヌキ見ました!」
会場「見とらんわァァァ!!!」
※こちらも、そんな生息報告はない。
にもかかわらず、なぜか拍手。
“正しさ”より“勢い”が評価されている。
「ちょ、なんか雄政くん、どんどん地元の人っぽくなってない!?」
ふみ香が戸惑う中、雄志郎が納得顔で頷いた。
「これはツッコミとボケの応酬に見せかけて、“観客を巻き込んだ集団演芸”だ。
一種の共有リズム……つまり“万歳グルーヴ”だな」
「何それ怖い。リズムで文化に吸収されるの?」
と、そこへ“地元ベテラン万歳師”が登場。
「ほな次は、ワシらが一発かましたるけん!」
拍手喝采。
が、その横に――なぜか雄政が“控えの芸人”として並んでる。
「ちょっと!? なんで弟子入りしてんの!?」
「いや、なんか“面白かったからそのまま残って”って言われて……」
それを聞いたおばちゃんから、拍手とみかんの差し入れ。
ボケがうまいと柑橘類が飛んでくる地域。
舞台が進む中、ふみ香はようやく理解する。
「……これ、漫才でも踊りでもなく、
“間違いを楽しむ勇気”の芸なんだ」
地元の笑いの沸点は、やけに低くて温かい。
そして、笑いに対する許容量がとにかく広い。
「みんなでボケたら、誰も恥ずかしくないけんねぇ」
と、おじいさんがニコニコしながら言っていた。
やがて夜が更け、笑い声が風鈴のように街を揺らす頃――
雄政は、
「ツッコミって愛だよな」とつぶやいた。
ふみ香は、
「なんか深いこと言ってるっぽいけど……多分、間違ってる」
とだけ返した。
でもそれもまた、伊予万歳。
(bon44:End)
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