第26話 京橋駅の駅神様
大阪と京阪をつなぐ要所、京橋駅。JR環状線、京阪本線、大阪メトロ長堀鶴見緑地線が交わり、駅前は飲み屋横丁のネオンと居酒屋の呼び込みで、昼夜を問わずにぎやかだ。
この駅を守る駅神様は、法被にネクタイを締めた「飲み会幹事」スタイルのおっちゃんだ。手にはお品書きを持ち、常に「今夜はどこ行く?」と叫んでいる。
「よっしゃ、今日も宴会の段取りはワシに任せとき!」
朝、環状線のホームでサラリーマンが慌てて走っていた。改札まであと数歩で、切符を落として青ざめる。神様はお品書きをバサリと振る。すると切符は奇跡的にホームの端に引っかかり、サラリーマンはギリギリで拾い上げることができた。
「はい乾杯! 仕事前やけど心はもう打ち上げや!」
午前中、京阪線の乗り場で観光客が困惑していた。
「淀屋橋? 三条? どっち行けばいいの?」
神様は頭をかきながら、声を張る。
「そりゃどっちも正解や! 観光は迷ってナンボや!」
すると偶然、隣にいた地元のおばちゃんが「淀屋橋ならこっち、京都ならあっちやで」と手際よく案内する。観光客は感謝し、神様は胸を張って「ワシが仕込んだアシストや!」と叫んだ。
昼、改札近くの立ち食いそば屋に人が列を作る。サラリーマンが「かき揚げかカレーか……」と迷っているのを見て、神様はお品書きをポンと突き出す。すると店員が「本日カレーそば大盛り無料!」と叫び、サラリーマンは即決。
「値引きは神の采配や! 財布も胃袋も満足度100%!」
午後になると、飲み屋街へ向かう若者グループが駅前で盛り上がっていた。
「焼き鳥行く? 韓国料理? 串カツ?」
神様は居酒屋横丁のネオンを眺め、鼻歌交じりに手を振る。すると、たまたま一軒の居酒屋の提灯がぽっと明るく灯り、若者たちは「ここにしよ!」と決める。
「よっしゃ、宴会場決定! ワシが仕切ったる!」
夕方、帰宅ラッシュで環状線ホームが大混乱。神様はお品書きをメガホン代わりにして叫んだ。
「右は京阪! 左はJR! 地下はメトロ! さぁさぁ、路線で分かれて並んでやー!」
ちょうどそのタイミングでアナウンスが流れ、人の流れは自然と三方向に分かれていった。神様はガッツポーズを決める。
「ほら見てみぃ! 宴会幹事の段取り力は伊達やないで!」
夜。駅前の居酒屋街は赤ちょうちんがずらりと灯り、人々が笑い声を響かせている。神様は梁の上に腰を下ろし、ビールジョッキを掲げた。
「京橋は“飲んで笑って帰る”街や。路線も多いけど、迷ったって最後は楽しい思い出になる。それがこの駅のええとこや!」
そして誰もいなくなったホームに向かって、豪快に叫んだ。
「みんなー! また明日もここで乾杯やー!」
その声は人には届かない。だが、不思議と京橋駅を出ていく人々の背中には、もう一杯飲んできたような温かさが宿っていた。
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