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第28話 大手町駅の駅神様

  東京の心臓部・大手町駅。丸ノ内線、東西線、千代田線、半蔵門線、都営三田線――地下に迷路のように広がる日本最大級の地下駅だ。しかも東京駅と地下道でつながっているせいで、乗り換え客も観光客も、気づけば「今どこ?」と呟いてしまう。
 この駅を守る駅神様は、探検家スタイルの壮年紳士。麦わら帽子にランタンを下げ、地図を広げては「あれ? ここどこだ?」と自分も迷っている。本人いわく「迷路を楽しむのが大手町流」だそうだ。
「さぁ本日も地下迷宮アドベンチャー開幕! 勇者たちよ、迷子にならずに出口を見つけるんだ!」
 朝。丸ノ内線から千代田線へ向かおうとする通勤客の集団が、一斉に角を曲がって止まった。案内板が見当たらず、全員が首をひねる。神様は慌ててランタンをぶんぶん振る。すると偶然、通路の電灯がチカチカ光り、壁の小さな矢印が目立って見えた。通勤客は「あっちか!」と走り出し、流れは再び動き出す。
「よし! 迷宮のトラップ解除成功!」
 午前中、観光客が東京駅に向かおうとして迷い込む。
「これって本当に東京駅に着くの?」
 神様は地図をくるくる回し、「合ってる、いや違う、やっぱ合ってる!」と独り言。だがその瞬間、偶然すれ違ったOLが「東京駅なら一緒に行きましょう」と声をかけ、観光客は救われる。
「ありがたや、パーティーメンバーが現れた! さすがRPGの街!」
 昼、改札を抜けたビジネスマンがランチに悩んでいた。
「カレーか、サンドイッチか、うーん……」
 神様はランタンを掲げる。すると近くの店から「本日限定・唐揚げ弁当!」の呼び込みが響き、ビジネスマンは即決。
「限定の言葉は迷宮最強のアイテムや!」
 午後、半蔵門線に向かう階段で、学生が「え、まだ歩くの? 永遠に着かなくない?」と嘆いていた。神様は笑いながら、ランタンを軽く揺らす。すると風が吹き抜け、ちょうど前方の改札に「半蔵門線こちら」と光が差し込み、学生は「ゴール見えた!」と大はしゃぎ。
「ほら、迷宮だってちゃんと出口はあるんや!」
 夕方、帰宅ラッシュで通路はすし詰め状態。人々が押し合い、空気がピリつく。神様は地図を広げて叫んだ。
「全員落ち着け! この迷宮にモンスターは出てこん!」
 その瞬間、偶然近くの会社員が「まぁ焦らず行こう」と声をかけ、周囲がクスッと笑う。空気が少し緩み、流れはまた穏やかに進んでいった。
 夜。最後の電車が出たあとも、地下道の一部はまだ煌々と明かりがついている。神様はランタンを置き、地図を折りたたんで深呼吸した。
「大手町は迷宮や。でもな、迷った分だけ人と助け合うんや。……それがここの宝物なんやろな」
 そして笑顔で麦わら帽子をかぶり直し、暗い通路へ消えていった。


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