第147章 岸和田市:キシワダノカミの止まらぬだんじり魂
岸和田の朝は、太鼓の幻聴から始まる。
それが本当に聞こえる日もあるし、気のせいの日もある。だが地元民にとっては「いつでも祭り準備中」という体感が常識だ。
その幻聴に、毎朝律儀にピクリと反応する神様がいる。
「ふっふっふ……今日も誰かが引っぱりたがってるな」
彼こそが、キシワダノカミ。だんじり祭りを心から愛し、町の勢いと活気に全力で応じる神様だ。
──ただし、勢いにブレーキをかけられないタイプである。
午前8時。駅前商店街。
キシワダノカミは、軽やかな足取りで登場した。法被をまとい、ハチマキは常時装着、口癖は「せやけど祭りの心は年中無休」。
この日、届いた願いはこうだった。
【願い】
「子どもの登園が、毎朝グダグダです。泣かずに行ってくれますように(母・32歳)」
「よし……これは、“登園だんじり作戦”でいこう」
彼が向かったのは、小さな保育園。
園児の一人・リュウくんは門の前で泣いていた。
「やだー!保育園いかないのー!」
「ほな、ちょっと“だんじり風”にいこうか?」
神、ガラガラと園のカートを持ち出し、手製のミニ屋台風パネルを貼りつけた。
「ほらリュウくん、乗ってみー!」
「え……これ、乗ってええの……?」
「“今日の主役やで!”」
神様の“引っ張る気合”が宿ったそのカートは、まるでだんじりのように角を曲がるたび「そいやー!」と叫ぶシステムが搭載されていた(神による手動)。
「うわあああ!はやいー!たのしー!」
──登園、大成功。
母親が目を潤ませながら手を合わせていたが、その感動もつかの間。
「帰りも“曳き出し”するんで予約よろしくです!」
神、ノリノリ。
午前10時。
次なる願いが舞い込んだ。
【願い】
「町内の掲示板、貼り紙が全部風で飛んで、スカスカです。寂しい」
「ほな、“勢いで貼り直し”や!」
神、手にしたのは謎の特製ホチキス(だんじり仕様)。
ガッチャン、ガッチャンと勢いで打ちまくる。
貼り紙の順番も、レイアウトも、すべて“だんじり勘”で配置。
「今月の資源ゴミ回収日」の下に「来世の予定:未定」など、うっかり神的な紙も混入したが、それも勢いのうち。
完成した掲示板を見て、通りがかりの小学生がひとこと。
「なんか……迫力あるな……」
「読みやすさより魂や!」
神様、満足気。
午後。
神は町内を散策していた。
そこで耳に入ったのは、女子高生二人の会話。
「えー、彼氏にLINEで“ノリが重い”って言われた~」
「うわ、それめっちゃショックやん……」
──神、立ち止まる。
「“重いノリ”?そら、ワシの出番やな」
神、突然登場。
「話は聞かせてもろた!いまこそ、“祭り的恋愛アドバイス”発動や!」
「え、だれ!?」
「恋愛も、だんじりや。最初に勢いつけすぎたら、カーブでぶつかるんや」
「たとえが激しいな……」
「けどな、相手が“のれん”やと思ったらあかん。“担ぐ”気持ちで向き合うんやで!」
「う、うん……なんか、納得しちゃうの悔しいけど、ありがとう……!」
神様、まさかの恋愛コーチングで感謝される。
夕方。
神通庁から通知が届いた。
《件名:勢いによる過剰対応について
内容:最近、地域の振動がやや過大です。カートで急カーブしたとの報告もあり……》
「ちょっとハンドル切りすぎたか……?」
だが、子どもたちの「またあれ乗りたーい!」の声に負けて、神は再び出動した。
「止められへんのや、この情熱はなぁ!」
夜。
神殿で反省ノートをつけるキシワダノカミ。
《本日のご利益:
・登園成功1件
・掲示板整備1件
・恋愛相談1件(結果未定)
・町内“ちょい騒がしさ”5件(すみません)》
「……明日も全力で、ほどよく暴走するで!」
そう叫ぶ神様の横で、だんじり型ティッシュケースが静かに揺れていた。
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