第67巻 横須賀市:ヨコスカノカミの願い
横須賀の海は今日も蒼く、静かに波打っていた。
――が、その波音をぶち破るように、神社の境内で怒号が飛び交う。
「よーし、今日もやるかァァァァ!」
そう叫ぶのは、ヨコスカノカミ。軍港の守り神にして、男気全開の願い請負人だ。
神社の鳥居には、やたらイカつい「軍艦カレーあります」の立て札。社務所の裏ではなぜか砲弾型の石像が祀られている。ご神体、重そうだ。
「オレ様が願いを叶えるときはなァ……ドンと構えてドカンとやる!それが横須賀流だ!」
彼の願いの叶え方は実にシンプル。願いを「戦艦級の勢い」で現実にしてしまうのだ。
だが、勢いがありすぎて、たまに町内が軽くパニックになる。
「昨日お願いした“ちょっと勇気がほしい”って願い……」
「ん?」
「……うちの子、突然クラス全員に“好きだー!”って絶叫して教室飛び出したんですが」
「それがッ! 男の生き様ってモンよ!」
苦情はあるが、感謝の手紙も多い。
***
その日、神社に現れたのは――
商店街でカレー屋を営む青年・圭太だった。
「神様……うちのカレー、どうしても流行らせたいんです」
ヨコスカノカミは鼻を鳴らした。
「ほぅ、いい心意気だ。名乗れ!」
「えっ、あ……杉山圭太、です」
「よし杉山、貴様の願い、ドッカンと引き受けた!厨房に詰めとけ!!」
「え、ちょ、なにを詰め――」
その日から、圭太のカレー屋に異変が起きた。
まず、厨房の寸胴鍋が急に“戦車型”になった。湯気の代わりに砲口から香りが噴き出す。
次に、看板が「戦艦圭太カレー艦隊」に変わっていた。
「圭太、これ戦争始まるの!?」
「ちがう!カレー出してるだけ!」
だがSNSでは、「なんかすごい」と若者にバズり、連日行列。
***
数日後。
ヨコスカノカミは、カレーのにおいをまといながら満足げに海を眺めていた。
「……杉山、貴様、なかなかやるじゃねぇか。あとはデザートだな。艦載プリンでも作れ」
「作れるか!」
だがその頃、圭太は密かに第二弾メニューを準備していた。
名付けて、「駆逐艦ココナッツチキンカレー」。
男気は、海のように広がる。
ーー
ヨコスカノカミの願いの叶え方は、確かにうるさい。でも、誰かを本気にさせるパワーがある。
願った本人が“覚悟”を決めるような、勢いだけじゃない温かさが、そこにはある。
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