第115章 函館市:ハコダテノカミの願い
函館山の中腹にある、小さな神社の境内に、ひとりの神様がいた。
その名も「ハコダテノカミ」。夜景と海が大好きで、日が暮れるとすぐ、山頂の方を見上げては「そろそろライトアップじゃな…」とつぶやいている。
今日もまた、海から吹き上げる風に髪をなびかせながら、彼はおごそかにお賽銭箱を磨いていた。
「恋が成就しますように――だと?それも、相手は“イカの人形”じゃと?」
彼の前に立っているのは、地元の女子高生・凜。修学旅行生が押し寄せる坂道の途中で出会った、ちょっと風変わりな子だった。
「だって、あのイカの人形、話しかけてくれるんですよ。“いかがですか?”って……ほら、語尾が“イカ”なのも運命っぽくて!」
「それは……観光土産屋の録音ボタンじゃろうが」
「でも!それだけじゃないんです!夢にまで出てきたし、抱き枕にしたら眠りが深くなって!」
ハコダテノカミは神妙な面持ちでうなずいた。
「ふむ、ならばわらわがその願い、叶えてしんぜよう。ただし、ちょっとだけ、じゃ」
「ほんとですか!?神様、ありがとイカ!」
――ということで、その夜。
港町を照らすロマンチックな光の中、彼女の部屋の窓辺には、謎の“生きたイカの人形”が、ぷるぷる震えながら浮いていた。
「……い、いかが、お過ごしイカ……?」
「きゃーっ!ほんとにしゃべったーっ!!」
「なんか……寒いイカ……。しかも俺、函館山の夜景の一部らしいイカ……もう何がなんだか分からないイカ……」
ちなみに、この“イカの人形”はハコダテノカミが偶然通りかかった工場から拝借(※無許可)し、魂を入れただけである。
「神様、これどうしたらいいんですか?」
「そなたが恋に落ちるなら、世話のひとつもしてみい」
結局、凜は“イカ彼”に毎日話しかけ、布団をかけ、おやつにする寸前で思いとどまり――次第に「自分、なにやってんだろ」という冷静な視点を取り戻していった。
そして数週間後。
「神様、やっぱり私、恋って……もっと、こう……生きてる人間のほうがいいかも」
「ふむ。それは進歩じゃ。恋とは幻、されど幻に気づくことこそ、恋の証じゃ」
“イカ彼”はその後、再びただの人形に戻された。いまは港の「イカす資料館」の展示棚で、ひっそり笑っている。
「イカしてる恋も、イカれた恋も、どちらも経験イカ……」
展示ボタンを押すと、そうつぶやくのは彼のクセか、神様の名残か。
そして、函館の夜景は今夜も輝いている。
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