『熱あるっぽい顔選手権』
朝、目が覚めたときにはすでに“それ”は始まっていた。枕元のスマホが震え、「速報:市内で『熱がある顔選手権』開催中」という通知が表示されていたのだ。
熱がある顔、とは。
「なんか熱ありそうな顔してんな」
「大丈夫? 顔が熱持ってる」
「顔が38.2℃っぽい」
そういった、“見た目で勝手に診断される現象”を競技にしてしまった恐るべき選手権。それが突如として、我が町・ミミズ谷区の広場で行われるという。
「それって、つまり“顔芸大会”ってことじゃん」
うっかり参加表明ボタンを押してしまったのは、まだ完全に寝ぼけていたからだ。まさかその後、主催者から「即出場OK! 本日正午集合!」と返信がくるとは思わなかった。
広場には、すでに“熱っぽい顔”の猛者たちが集結していた。
・赤ら顔でゼーゼー言ってる高校球児
・額に保冷剤貼ってるサラリーマン
・視力検査で「C」に集中しすぎた女の子
・ただの貧血のフリしている主婦
・風邪ひいた妹の看病しすぎた兄(もらい熱演技)
もはや“体調不良コスプレフェス”と化している。
開会のゴングとともに、実況の男が現れる。
「さあ始まりました! 第一回・熱がある顔選手権ッ! ルールは簡単! “実際には平熱”であることが条件! でも見た目は39.4℃を演出してくださいッ!」
もう倫理も医学もあったもんじゃない。
だが会場は異様な盛り上がりを見せていた。
1人目、酔っ払い風の中年男性が登場。顔は真っ赤、声はうわずり、喉を抑えて「あ゙〜っついわ……」と呻く。体温計を見せると「36.5℃」。完璧だ。審査員全員が「熱ある風〜!」と拍手喝采。
2人目は小学生。演技なのに、涙目で咳き込む様子がまるでインフルエンザの初期症状。観客全員が「あいつ、絶対給食残すタイプだ」と騒然。
いよいよ私の番が回ってくる。
作戦はこうだ。
・顔は青白く
・おでこに自前の冷えピタ(使用済み)
・手にポカリを持ち、ふらつきながら登場
・片手には“体温37.9℃”の紙芝居(自作)
だがステージに上がった途端、事件が起きた。
「え〜、こちら、エントリーナンバー24番の……」
実況の男が近づいた瞬間、顔を覗き込んで言った。
「……あれ、本当に熱ない?」
「はい、演技です」
「いや……これ、ガチで熱じゃね?」
次の瞬間、場内にいた医師役の審査員がダッシュしてきて、私の額に触れる。
「この人、本当に38.8℃ある!!」
「うそでしょ!!」
ざわめく会場。笑う観客。焦る私。
「違うんです! これは……演技なんです!」
「体温計、実測でいきます!」
出てきたのは昔ながらの水銀体温計。脇に挟まれて数分。結果は――
「39.2℃!」
リアル発熱で即失格。私は選手権初の「出場取り消し+病院送り」になった。
翌日、目を覚ました病室で看護師さんに言われた。
「あなたの顔、本当に“熱ある顔”でしたよ」
「それ、褒めてます?」
「まあ……演技派ですね。もったいない」
それからというもの、私は街中で時々声をかけられるようになった。
「熱ある顔選手権、見ましたよ! 顔、熱持ってました!」
「あの自然な汗の出方、マジだったんですね」
「今年の“顔芸オブ・ザ・イヤー”、狙えますよ!」
……人生、何がどう評価されるかわからない。
次の大会では、ちゃんと“平熱で熱ある顔”を演じるつもりだ。
リベンジは、必ず。
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