第71巻 長野市:ナガノノカミの願い
長野市、某月某日。
善光寺の参道にひっそりと佇む、よく見るとちょっと大きすぎる木造ベンチ。
実はそれがナガノノカミの御神体である。涼しげな顔で、日陰を提供するスタイル。
「願いがあれば言うがよい。だが、私は“爽やかに”しか叶えん」
そう、ナガノノカミは「願いは涼しく爽やかに叶える」をモットーとする、風通しのいい性格の神様だ。
そこに現れたのは、会社帰りの営業マン・村井くん(28歳・やや汗かき)。
「神様、俺、もう限界なんス。転職したいんス」
ナガノノカミは、じっと彼を見つめて言った。
「うむ。では、まずクールダウンだな」
「……はい?」
「君は暑い。脇汗が地図を描いている。まず冷やせ」
「悩みの相談って、そっちから入る感じです?」
言われるがままに、村井は神社の裏手にある冷水機で水を飲み、なぜか隣に用意されていた「氷そば(神様試作)」を食べた。
食べると、たしかに気分は爽快になる。だが――
「で、転職の話なんスけど」
「うむ。それでは……君の履歴書を、風に乗せよう」
「えっ。風に?」
神様はおもむろに村井の手から履歴書を奪い、紙飛行機に折った。
「やめてください!それ、応募用!」
「風に乗った書類こそ、真に届くべき場所へと届くのだ」
そして、ふわり。神様がそっと放った紙飛行機は、参道の風に乗り、ふらふらと舞いながら善光寺の屋根に引っかかった。
「届いてないじゃないですかああああああああ!」
それでも神様は微笑む。
「安心せよ。あれは魂のコピーだ。本物はちゃんと転職サイトで送っておいた」
「えっ、神様ネット使えるんすか?」
「そりゃあな。Wi-Fiは通っておる。“Zenkoji_Free_Wi-Fi”だ」
「地味に便利!」
ところで、神様の叶え方にはもう一つ特徴がある。
願いを“気候に変換”して叶えるのだ。
つまりこのあと、村井の職場だけ局地的に“爽やかな高原の気候”となる。冷房いらず、汗知らず。
ただし、会議中に突然そよ風が吹いて資料が全部飛ぶという副作用もある。
その日の夕方、ナガノノカミはいつもの木製ベンチに戻っていた。
「はあ、今日もいい風が吹いた……」
隣では、転職先から電話が来て驚いてる村井が、「まじで書類通った……!」とつぶやいている。
その耳元には、そっと風の音。
「ゴー(Good Offer)」
気のせいかもしれない。
📌
ナガノノカミの願いの叶え方は、気温と湿度に影響する。
でも、それで人生がちょっと涼しくなれば、悪くない。
“クールな決断”ができる町、それが長野なのだ。
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