悪事のつもりが慈善活動になってる件について。
目を覚ましたとき、悠生は豪華な天蓋付きベッドの中にいた。
「……ここはどこだ」
部屋の壁は金の装飾、棚にはやたら重そうな宝石の置物、そして鏡の中には、つややかな金髪ロールの少女。
「俺が……悪役令嬢……!?」
そう、悠生は乙女ゲームの世界に転生していた。しかも、攻略対象たちに嫌われ、物語後半で国外追放される“悪役令嬢・ユリーシア”として。
「シナリオ通りの人生も面白いか…」
そう思った彼――もとい、彼女は、行動を始める。
*
まずは、ヒロインの登場を邪魔するという“運命の初イベント”。
ヒロイン・日菜が学園の花壇に花を植えているところへ、ユリーシアは「水をこぼして台無しにする」ことになっている……が。
「水をぶっかけてやる……って、熱中症になったら困るから、日陰に誘導してから冷たい麦茶を──」
結果:
ヒロイン、感謝感激。
「お優しい方……私、貴女をずっと誤解しておりました……!」
「えっ?いや、悪意あったはずなんだけど!?」
*
次なる悪事は、舞踏会でヒロインのドレスに飲み物をこぼす予定だった。
「……やってやる。スープを、ドレスに、ぶちまけて──!」
だが、日菜がドレスの裾で転びそうになった瞬間、反射的に手を差し伸べてしまう。
結果:
ドレスは無傷。さらに会場中が拍手。
「ユリーシア様、まるで白馬の王子のようでした!」
「いや、ちが……転びかけたから反射で……って、これ誰かに褒められる流れじゃない!?」
*
その後も、
・「贈り物を盗んだ」と言われる → 実は落とし物を拾って届けただけ
・「婚約者の皓貴に嫌われる」と思って距離を取る →「自分なんか相手にされるわけがない」という健気さが皓貴の心を撃ち抜く
すべて、悪事のはずが善行に変換されていく。
「おかしい……なんで俺がやると、全部“良い話”になるんだ……?」
もはや自己評価の低い悠生は、すっかり混乱していた。
*
そんなある日、ついに学園最大イベント「婚約破棄宣言」が発動。
王子・皓貴が、パーティーの場で日菜を庇い、ユリーシアに絶縁を叩きつける……というシナリオだった。
だがその場で、皓貴は言った。
「……僕はユリーシアを、真の意味で理解していなかったようだ」
「えっ?」
「これまでのすべてが、“優しさ”から来ていたとようやく気づいた。僕は君と、人生を共にしたい」
「いや、違う違う違う!! 俺、悪役なんだけど!?」
*
結果、皓貴の愛は強化され、学園の皆から祝福されることに。
それを見ていたライバル貴族の琴都は、ぼそっと呟いた。
「親近感あると思ってたら、まさかここまで天然とはね……」
*
後日、悠生が日記を書いていた。
《本来のルートなら、今ごろ国外追放。なのに、なぜか周囲の評価が“女神級”。俺のどこでボタンを掛け違えたんだ……》
──すると、部屋のドアがノックされる。
「ユリーシア様、難民支援のために焼いたパンの追加便が届いています。お手紙にも“心から感謝を込めて”と……」
「え?俺、そんな善行したっけ……?」
「……昨日、パン工房に“余ったらあげれば?”ってぼそっと言ってました」
「それか!!」
彼女――いや、彼(?)は今日もまた、“悪役”としての理想に向かって失敗し続けている。
そのたびに、世界はほんの少しだけ優しくなっていくのだった。
いいなと思ったら応援しよう!
楽しんでいただけることが一番の喜びです。いつもご覧いただき、ありがとうございます!これからも、皆さんと一緒に素敵な時間を共有できるように、より一層努力していきます。