キャンプ、舐めんな。
「大自然を、感じたくない?」
唐突にそんなLINEを送ってきたのは、会社の同期・内田だった。
彼はここ半年、YouTubeで“ソロキャン動画”ばかり見ては「やっぱ火と肉だわ」と語る危険人物に進化していた。
「男三人でさ、焚き火囲んで肉焼いて語らない?」
──いや、それ全部、煙で咳き込んで終わる未来が見えるんだけど。
だが断れぬ圧に負け、俺ともう一人の被害者・佐々木は、半ば強制的に「リアル焚き火体験ツアー in 山奥」に連行された。
初日の問題点は「全員初心者」だったことだ。
内田:「このテント、YouTubeで見たやつと違うな……どうやって広げるんだろ」
佐々木:「お前、買ったのに開き方わからんの!?」
俺:「てか、ペグ(杭)どこ刺せばいい? コンクリやんここ」
そう、キャンプ場“予約取り忘れた”3人組で押し寄せた結果、我々は“空き地に見える砂利駐車場”でテントを張る羽目になった。
内田:「まぁまぁまぁ! 大自然ってのは場所じゃない、心だよ!」
そう言い放って彼は缶ビールを開け、たちまち顔が茹でタコになった。
佐々木:「ちょ、お前飲んだら車運転できんやん。誰が帰るの」
内田:「焚き火って帰るものじゃなく、そこに“居る”ものじゃない?」
……始まった、名言タイム。
問題は夜だった。
「……寒い」
「……暗い」
「……虫、すごくない?」
──都会のぬるま湯に慣れきった我々にとって、“自然”とは“文明の不在”だった。
しかも、内田が焚き火を「男は黙ってマッチ一本で」などと宣言した結果、火がまったくつかない。
湿った新聞紙が白煙を上げるだけで、何も焼けない。
そして、腹は減る。
「ねえ、さっきのファミマ……車で10分だったよな?」
「行くか?」
「でも“キャンプ”感ゼロになるぞ」
「もうゼロだよ!」
結局、三人で車を走らせ、コンビニ飯を片手にテントで食べるという“キャンプらしき何か”に落ち着いた。
「……こんなはずじゃなかったのに」
そうぼやく内田を、佐々木がなだめる。
「いや、これもこれで味あるよ。いつか笑い話になるって」
──そう、それが翌日になるとは、誰も思わなかった。
翌朝。
「……うわああああああ!!」
内田の絶叫で目が覚めた。
テントの横に、山菜採りのおばあちゃんが立っていたのだ。
「んまあ、今どきの若い子はこんなところで寝て、寒くないのかねえ!
おなかすいてんだろ? これ、おひたし。さっき採ってきたばっかり!」
どこからともなく現れた天然素材の差し入れ。
内田が「文明の灯を……!」と叫びながら焚き火に再挑戦すると、まさかの一発着火。
佐々木:「……おばあちゃん、火の神か?」
おばあちゃん:「若い頃、林業やってたのよ。焚き火の湿度、音でわかるの」
なんだその特殊能力。
結局、焚き火でおひたしを温め、最後に焼きおにぎりまで登場。
キャンプ史に残る「早朝ばあちゃんタイム」で、心も体も温まった。
別れ際、おばあちゃんが言った。
「また来なさいな。次はキノコ採り教えてあげるよ」
内田:「女神……」
帰り道。
コンビニの袋が床に転がる車内で、全員が無言になった。
佐々木:「……あれ? キャンプ、楽しかった?」
内田:「……ちょっとな。てか、またやろうぜ」
俺:「……え。いや、俺はその……次回は、ちゃんと予約しような」
次の週、内田はさっそく“焚き火検定”なる謎の資格を調べていた。
キャンプは、なめてはいけない。だが、なめてるくらいがちょうどいい。
そして俺たちは今日も、職場の休憩室でこっそりと“焚き火のゆらぎBGM”を流している。
文明の中で、火に癒されながら──。
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