【bon24:北海道_北海盆唄と“腰が止まらない男”事件】
「ヤーレン ソーラン ソーラン!」
威勢のいい掛け声と共に、北海道の夜に鳴り響く「北海盆唄」。
力強く、それでいて軽やかに流れる太鼓と笛の音に合わせて、輪になって踊る参加者たち。
だがその中心で――ひときわ腰のキレだけ異常な男がいた。
「うおぉぉぉぉ腰が! 腰が止まらんッ!!」
もちろん雄大である。
腰、腰、腰。腰で全部のリズムを取る、腰中心のフリースタイル北海盆唄。
その異様な動きに、観客からも微妙なざわめきが起きる。
「……あの人だけ“腰にAI積んでる”みたいになってない?」
冷静に指摘するのは、エミ。指示待ちタイプである彼女は、逆に“正しい型”を徹底的に守ろうとしていた。
「マニュアルに“腰をグルングルン回せ”って書いてませんでしたよね……?」
その隣で踊るのは、朝斗。
他人の成長を喜べる温厚な男で、なぜか微笑ましそうに眺めていた。
「うん……でも、雄大さんなりに“魂を揺らしてる”って感じするよね」
「魂どころか“仙骨”まで揺れてるよ!?」
そのとき、笛の合図と共に――輪の中に現れたのが、蒼之介。
場の空気を何より重んじる彼は、雄大の前に立ちはだかり、静かに、ただひと言。
「……君、腰がやかましい」
「新ジャンルの注意されたァァ!!」
雄大の腰は止まらなかった。
いや、正確には“誰も止められなかった”。
全身が一本のバネのように跳ね、踊りの輪の中で、もはや“北海盆唄”ではなく“北海盆バネ”と化していた。
「この躍動感……俺、開拓してる……魂のフロンティアを……!」
「自分の股関節を開拓しないでください!!」
美琴が鬼の形相で割って入った。
一方、場の中心では静かな女性――茜理が、
物事の順序を守ることに命をかける勢いで整然と踊っていた。
「……いま、盆唄の流れが完全に乱れてる……順序が……破壊されてる……」
「え、もしかして、私の腰が構成を破壊してる……?」
「うん。見事に“腰中心に時間軸が歪んでる”」
はづきが真顔で分析した。
するとそこに、雄大のステップを見ていた地元の少年がぽつりとつぶやいた。
「なんか……あのお兄さん、面白い……」
その声をきっかけに、なぜか輪の周囲で子どもたちによる腰ステップ模倣ブームが巻き起こる。
それを見た朝斗が一言。
「……彼はもしかしたら“開拓者”かもしれない」
「ちょっと! 腰だけで新時代切り開かないで!」
蒼之介は、事態を収拾すべく静かに笛を吹いた。
その合図で全員のステップが揃いはじめ、流れが元に戻りはじめたそのとき――
「よし、俺も流れに合わせてみる……」
初めて“音頭の型”に自分を預けた雄大。
その腰は、今度こそ“空気の中に溶けて”いった。
――完全に踊りと同化した雄大の動きを見て、蒼之介が静かにうなずく。
「……腰も、ようやく帰ってきたな」
エミがひとこと。
「帰宅扱いされてる……腰、帰ってきたって何……?」
そして夜の帳が下りるころ、
雄大はふらりとつぶやいた。
「……腰って、自由だな……」
「それは感想じゃなくて“反省”として言ってくれ!」
(bon24:End)
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