第128巻 流山市:ナガレヤマノカミの願い
──願いは穏やかに優しく。でも“穏やか”のさじ加減は案外難しい。
千葉県流山市、川沿いの遊歩道を抜けた先に、ぽつんと古い祠がある。新興住宅街に囲まれてはいるが、ここだけは昔の自然が残っているようだ。そこに祀られているのが、ナガレヤマノカミ。のんびり屋で優しい神様である。
神様は今日も木陰で、ポカポカの日差しを浴びながらゴロンと寝そべっていた。
「……ふぅ〜。風が気持ちいいのぅ。願い事? ああ、あとで聞くぞ……。昼寝のあとは、な」
そこへ羽琉が駆けてきた。穏やかな雰囲気を持つ高校生だが、今日は少し焦っている。
「神様! ちょっとだけでいいから助けて!」
「ふわぁ〜……おお、羽琉か。どした?」
「うちの町内会の“親子川遊びイベント”なんだけど……当日スタッフが全然集まんないんだよ!」
「ふむ。まあ誰もケンカしてないのなら平和じゃろ」
「いや、平和すぎて“誰かやるだろ”ってなってるんだってば!」
「……それもまた平和の一形態では?」
「違うって!」
そこへ、衝動的で行動力のあるなつみも現れた。
「スタッフ足りないなら、やっちゃえばいいじゃん! 集まんなかったら、私と羽琉で全部やるとか!」
「いや、それはさすがに無謀……」
神様はポンと手を打った。
「よし、こうしよう。“川の流れに身を任せスタッフ決定くじ”じゃ!」
「それ何!?また神様得意のゆるいやつ!?」
神様は川に小さな流木を流し始めた。
「この流木に、近所の住人の名前を書いた紙を貼っておくのじゃ。拾った人が、そのままスタッフ確定!」
「参加表明どころか、強制任命じゃん!」
次の日から、朝の川辺には住人たちがそわそわ集まり始めた。
「私の名前、流れてきたら嫌だわぁ〜」
「いやー逆に当たったら腹くくるかー!」
「まさか神様くじで人集めとはな……」
日が経つごとに、むしろ住人たちの間に妙な連帯感が生まれていった。完全なナガレヤマノカミマジックである。
そこへ直感を信じる龍之進も参加してきた。
「俺、あえて拾ってみるわ!」
「わざと!?」
「どうせなら最初に動いて流れ作った方が楽じゃん?」
「……それは確かに正しいかも……」
そして、イベント当日。
当初は「人手不足で中止かも」と騒がれていた川遊び大会は、まさかのフルスタッフ体制で開催された。拾った人だけでなく「拾わなかったけど手伝うわ」という人が続出したからだ。
「ナガレヤマノカミのくじ、妙に効くな……」
羽琉は驚きつつ川を眺めた。
川遊びは大盛況だった。子供たちは水鉄砲でバシャバシャ、親たちは焼きそばとスイカを用意し、大人たちは流れに身を任せながらビール片手にニコニコしていた。
「これが流山流か……」
夕暮れどき、神様は芝生に寝転がりながら満足そうに笑った。
「人も川も、ちょっと流されるくらいがちょうどいいのじゃ」
「神様、でもあれですね……結局、みんな“自分から動いた”ってことなんじゃ?」
「おお、よきかな。流れに乗るも、流れを作るも、どちらも“自然の流れ”じゃ」
微風に乗って、川面がきらきら揺れていた。
──今日も流山の神様は、のんびりと流れを見守っている。
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