第132章 小平市:コダイラノカミの願い
──文化と自然をこよなく愛する神様。今日も市民の願いに、ちょっとだけ応えます。
小平市。玉川上水のほとりに佇む静かな神社に、小平の神様、コダイラノカミは暮らしていた。
この神、非常に穏やかで優しい。願いを叶える際は、なぜか“自然と文化に関係ある方向”に微調整されてしまうというクセがある。
ある日、文化施設の前で立ち尽くす高校生・陽仁が、紙袋を抱えていた。
彼は他人を褒めるのが好きで、ちょっとお調子者。今日は珍しく真剣な顔だ。
「……やばい。演劇部の発表会、台本がまだ完成してないのに、上演まであと三日しかない」
その台本は、平凡な恋愛ドラマのはずだった。
が、その夜、祠にふらっと立ち寄った彼の言葉を、神様が聞いてしまった。
「神様、誰でも感動できる台本にしたいんだ。うまく言葉が出てこないんだけどさ……なんか、もうちょい文化的な深み? 出せませんかね?」
「ふむ……文化的、とな?」
翌朝、陽仁が目を覚ますと、机の上に原稿用紙が一枚。
『新台本案:茶道部×弓道部×落語研究会合同ミュージカル「めくるめく静寂の中で」』
「いや誰得だよ!」
文化的すぎた。
「小平らしさ全開の演目」として提案されたこの案、メンバーには大不評。
しかし、“やるかもう諦めるか”の二択に追い詰められた結果、案外「斬新すぎて逆に面白いかも」となる。
落語の出囃子で登場する弓道部員。
茶道部が大真面目に歌いながら点てる抹茶。
ラストシーンは、全員で「掛け軸に想いを託す」合唱シーン。
「これは……何を見せられてるんだ……」
観客の保護者たちも、最初は困惑していた。
が、じわじわ来た。
「……茶を点てながら、泣いてる……?」
「“お菓子は心を包む器”とか言ってる……のに……なぜか泣ける……!」
上演後、やたらと文化施設の申込が殺到し、小平市のホームページはアクセス過多で一時落ちる。
「ちょっと待ってください! これ、神様のせいですよね!? 完全にクセ出てますよね!?」
陽仁が祠でツッコミを入れると、神様はふんわり微笑んで答えた。
「文化とは、重くも軽くもできるが、人の心をほどくには“静かな違和感”が一番効くものじゃ」
「……なるほど。なんか納得しそうになってる自分が怖い……!」
「それに、君の“誰でも感動できる台本”という願い、たしかに叶っておる。観客の心に、ちゃーんと沁みていたじゃろ?」
陽仁は、ちょっと照れたように笑った。
「まあ、ウケたから結果オーライっすけど……。でも次は、もうちょっと普通の願いにします」
「それは無理かもしれんのう」
神様はふたたび、お茶を啜った。
静かに、穏やかに、小平の空に文化の風が吹いていた。
いいなと思ったら応援しよう!
楽しんでいただけることが一番の喜びです。いつもご覧いただき、ありがとうございます!これからも、皆さんと一緒に素敵な時間を共有できるように、より一層努力していきます。