第98巻 つくば市:ツクバノカミの願い
つくば市。
研究所、学園都市、ロボット展示。知性と未来がぎゅうぎゅう詰めのこの町には――
「願いを理論的に叶える神様」がひっそり存在している。
その名は、ツクバノカミ。
願いの叶え方は、非常にクール。
「情熱? 非合理です」
「ひとまずロジックに従って処理しますね」
……と、AIアシスタントのように冷静だが、叶えるスピードは異様に速い。
ただし副作用として、“味気なさ”が著しく高まる傾向がある。
中学二年の綾人は、つくばの静かな住宅街に住む少年。
彼はふと、研究学園駅近くの公園で見つけた「願いポスト」に、こんな願いを書いた。
「人との距離がうまく取れるようになりたい。空気を読んで気まずくならない能力がほしい」
…友達と話してても、ちょっとした沈黙や、返しに困る話題が出ると心がグニャるのだ。
その願いを見た瞬間、ポストが「ピピッ」と機械音を鳴らし――
翌朝、綾人は「ソーシャル・バランス自動調整システム」を搭載された状態で目を覚ました。
学校に行くと、周囲との会話が妙にスムーズになっていた。
「これさー、昨日のアニメ見た?」
→ 綾人「うん、見たよ。2話前との対比がすごかったよね」
(※実際は見ていない。システムが自動生成)
「これ食べる?」
→ 綾人「アレルギーあるけど、その気遣いが嬉しい」
(※アレルギーはない。システムが最適反応を出力)
本人も思わず口を押さえた。
「俺……しゃべってないのに……勝手に“いい感じ”の会話してる……!」
数日後。
綾人は“距離感の神”としてクラスの空気を制していた。
嫌われず、馴れ馴れしくもなく、誰にも不快感を与えない――完璧な人間関係の中間値。
だが、ある放課後。
「綾人って、話してても“人間味”ないんだよね~」
「なんか、何言っても“正解”で返される感じ」
同級生のちょっとしたつぶやきに、綾人の“システム”がピピピッと反応し、バグった。
――翌日、登校すると綾人は口数が激減。
挨拶も「おは……う……えっと……」と、人間らしい戸惑いが戻っていた。
そこに現れたのが、白衣姿の青年風――ツクバノカミである。
「君の願い、“処理”はしましたが……満足度がマイナス成長ですね。原因は“ヒューマン・エモーション未実装”でした」
「もっと早く気づいてくれよッ!!」
「よって、システムは本日をもってオフラインです。代わりに、“失敗してもなんとかなる勇気”を導入しました」
「そっちの方がありがたいッッ!!」
今日もつくばの街では、
ひとりの少年が人間らしく失敗しながら、
ややぎこちない友情を築いている。
神様はその様子を、冷静に、しかしほんの少しだけ微笑んで見守っていた。
──完──
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