第17話「ビニール袋と圧力の神」
日曜の昼下がり。
松井と吉澤が連れ出したアルキメデスが、商店街の一角にあるスーパーマーケットにいた。
「今日のテーマは“買い物”!」
「おお……物々交換の儀か」
「いや、貨幣を使って商品を手に入れるだけだから」
—
入り口の自動ドアが開いた瞬間、アルキメデスはまたもや立ち尽くす。
「扉が、わしを迎え入れた……!?」
「それ自動ドアっていって、センサーで——あ、もうダメだ。始まった」
—
野菜売り場では、じゃがいもを手に取り、
「この質量、この皮の厚さ……
“調理前のエネルギー状態”として理想的だ」
—
精肉売り場では、
「肉を透明な膜で包むことで、酸化を防ぐと同時に、視覚的購買意欲を刺激する……!」
「やばい、説明がスーパーのバイトリーダーより詳しい」
—
だが真の事件は、レジ横の袋詰め台で起きた。
—
アルキメデスは手渡されたビニール袋を両手で広げ、まじまじと見つめる。
「この形状……左右に配置された取っ手……
重力を分散し、中心に物体を安定させる構造……!」
「……これは、吊り橋と同じ理論だな」
「いや違う違う! もっと単純な袋だから!」
—
だが、アルキメデスの探究は止まらなかった。
袋に商品を一つずつ入れるたび、重心と圧力の分布を確認。
ペットボトルは縦に、卵は水平に、ネギは取っ手と平行に配置。
—
「これで、全体重量が肩に均等にかかる……まさに神の設計だな……!」
—
隣にいた主婦が、興味深そうに声をかけた。
「アンタ、ずいぶん几帳面ねえ」
「いや、それが彼の“通常運転”です。むしろ今日は落ち着いてる方で……」
—
袋を手に取り、歩き出そうとしたそのとき——
アルキメデスはふと立ち止まり、こうつぶやいた。
「……この袋は、“透明な布”にして、なおかつ圧力に強い……
すなわち、“軽くて強くて、しかも自在”——
これは……神器なのではないか?」
—
「スーパーの袋を神器にすんな!!」
—
さらに彼はこう続けた。
「この素材、未来の衣服に応用できぬか? 湿度を通さず、空気は通す……
もしや、わしが現代に来た意味は、この素材を学ぶためだったのでは……?」
—
「いや、もっとあるだろ! 他に! 医療とか通信とか!」
—
帰り道、アルキメデスはビニール袋を両手に持ち、何かの神事のように歩いていた。
—
その夜のノートには、こう記されていた。
《今日の観察》
・ビニール袋は、現代の万能器
・設計には、人類の重力対策の叡智が詰まっている
・取っ手は、希望を提げる“翼”でもある
・風が吹くと、袋は空を舞う——まるで魂のように
(第17話 完)
いいなと思ったら応援しよう!
楽しんでいただけることが一番の喜びです。いつもご覧いただき、ありがとうございます!これからも、皆さんと一緒に素敵な時間を共有できるように、より一層努力していきます。