第72巻 新宿区:シンジュクノカミの願い
新宿の高層ビル群の中、地上200メートル。
そこにぽつんと佇む展望台の一角。
立ち入り禁止のロープの奥、非常にわかりにくい場所に、なぜか座布団が一枚敷かれている。
それが、シンジュクノカミのご神体である。
「はーい願いある人、3秒以内で言ってー、はーい時間切れー」
そんな神様である。
この神様、とにかくせっかち。
参拝者の祈願には秒速で対応するが、雑さにも定評がある。
その日やってきたのは、動画編集者・里見くん(26歳・締切に追われすぎて頭頂部が気になりだした)。
「神様……もうだめです……今日中に15本編集しないと……」
「了解!叶えた!はい次!」
「えっ、ええっ?」
翌朝。
彼のPCは、勝手に編集を終えた15本の動画を生成していた。
……が、全部ナレーションが神様の声だった。
「ハイ!ドウモ!ワタシガカミサマデス!ドウガヲゴランクダサイ!サイゴマデミナイトバツガアタルゾ!」
チャンネル登録者が激増したが、違う意味でバズってしまった。
別の日。
恋に悩むOL・美咲さんが現れた。
「神様……気になる彼に告白したいんですけど……勇気が……」
「はいわかった言ったった。次!」
「えっ?」
美咲のスマホが勝手にメッセージを送信していた。
《好きです。ランチご一緒しませんか。あと今日の靴、逆です》
「後半いらない情報ーーーーー!!!」
そんな感じで、願いは高速で叶えられていく。
ただしスピード優先のため、だいたいどこかがズレている。
ある日、神様に向かってサラリーマン風の男が叫んだ。
「お願いです!10秒で出世したい!」
「OK!かなえた!次!」
その男、翌日社内で“出世魚”として飾られた。
社食の鮮魚コーナーに、自分の顔写真と一緒に「ブリの出世ルート図」が掲げられていた。
リアルに「出世」した。
「違う……そうじゃない……」
神様は言う。
「願いは秒速で変換しなきゃ、東京のリズムには合わないからね!」
言いながら、お賽銭箱に飛び込んだ五円玉をパチンコ玉みたいに跳ね返していた。
とはいえ、たまにピタリとハマる人もいる。
「今日、どうしても終電に乗りたい!」
「はい、乗った!」
次の瞬間、駅の電光掲示板がこう表示された。
《新宿→終点:天国ゆき(片道)》
乗っちゃだめだこれ。
でも、不思議と誰も文句は言わない。
なぜなら、新宿の人々も秒で切り替えるプロだからだ。
スマホ落としても「まあいいか」
連絡取れなくても「ま、明日でいっか」
神様が雑でも「まあ、新宿だし」
そして神様は、今日もご神体の座布団に座って、無数のお願いを聞き流していた。
「はい叶えたー!はい叶えたー!ハイ次の方どうぞー!」
なんとなく、神様というより新宿のタクシー乗り場係みたいなテンポである。
でもそれが、シンジュクノカミのやり方。
📌
願いを叶えるのに、時間はかけない。
スピード最優先で、とりあえず結果を出していく。
それが、新宿の神様。
雑でも速けりゃいい。
なんとなく、現代を象徴してる気がしてくる。
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