そのやさしさ、圧がすごい
「佐伯さん、これ使って。今日、くしゃみ多かったでしょ?」
朝の会議明け、隣の席の水野さんが、無言でマスク一箱を差し出してきた。
ドン、と机に置かれたそれは、無香料・立体フィット・99%カットの最上級モデル。
「えっ……そ、そこまで気遣ってくれるの……?」
「あと、これも」
次に出てきたのは、ポケットティッシュ10パック。しかも全部、保湿タイプ。
そのあと、のど飴、カフェインレスの紅茶、胃に優しいグミ、最終的に目薬まで出てきた。
「風邪なの?」
「いや、ちょっと花粉とホコリが……」
「だから、今日ずっと鼻すすってたんだ」
やさしい笑顔の水野さん。でもなんか……量がすごい。
「……ありがとう。でも、ここまでは……」
「体調管理は、社会人の基本だから」
「圧が……!」
翌日。
「佐伯さん、これ“消化にいいお弁当”ってネットで見て。作ってみた」
昼休み、私の机の上に手作り弁当が置かれていた。
メインは湯豆腐、副菜はおろし和え、卵焼きには長芋入り。お粥まである。
「……やさしさ、過保護の域に達してませんか?」
「うち、出汁とるの趣味なんだ」
「出汁のスケールが実家なんよ……」
さすがに恐縮して、私はちょっと冗談めかして言った。
「なんかこう、栄養指導とかしてくれそうですね」
「実は、栄養士の資格、持ってる」
「やばいやばいやばい」
翌週。私が少し咳き込んだだけで――
「佐伯さん、これ、“よく眠れるアロマスプレー”。あと加湿器、デスク用。あと、クッション。腰冷やさないようにね」
席が、健康管理センターになっていた。
どんどん“人のためになる圧”が増していく水野さん。
ありがたい。感謝してる。でも――
「……これ、もう職場じゃなくて、“ケア施設”じゃないですか?」
「“誰かの役に立てたらうれしい”って、祖母の教えなんです」
「水野家の徳が深い……!」
その日の夕方。
私は咳がひどくなり、定時前に早退した。
帰宅して寝込んでいたら――ピンポン、とインターホンが鳴る。
「宅配便でーす!」
開けたら、水野さんの名前で届いた段ボール。
中には、ビタミン飲料6本、カイロ10枚、パジャマ(綿100%)、そして――
「早く元気になりますように。
※これは強制じゃないので安心してください!」
「いや、完全に圧なんよ!!!!」
翌日、出社してきた私は、思い切って言った。
「水野さん。いつもありがとうございます。すごく助かってます。けど……少しだけ、ゆるくしてもらっていいですか?」
水野さんは、少し目を見開いて、それからふっと笑った。
「そっか。ごめんね、嬉しくなっちゃって。
“やさしさの総量が正義”だと思いがちなんだよね、私」
「その気持ちは、ちゃんと届いてますから」
「よかった。じゃあ、明日から“支援物資”は週1にするね」
「“支援物資”って言っちゃったーーー!!」
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