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『マル秘ファイルとカツ丼の謎』

 ある日の昼下がり、県庁のとある地下室。そこには「県機密文書保管室」と書かれたプレハブ小屋がぽつんと建っていた。

 この場所を管理しているのが、県庁職員・室井。趣味はシュレッダーで和むこと、特技は“会話の中で誰よりも早く話題を変える”ことである。無口系のように見えるが、実際は「沈黙を強引に破壊する」タイプ。

 今日も彼は古びた資料の山に囲まれながら、ひときわ目立つ“マル秘”スタンプが押された一冊を手にとっていた。

「“マル秘ファイルNo.173”…タイトルは“県庁職員のカツ丼消費量と幸福度の相関関係について”。……バカバカしい。実に素晴らしい」

 そう、ここにある“マル秘”文書はすべて、誰にも見せられないほど意味不明な資料ばかりなのだ。


 その日、部屋にひとりの新人職員が配属されてきた。

「初めまして!田辺と申します!なんかスパイ映画みたいな部屋でワクワクしますね!」

「ここでは静かにすること。音を立てると資料が怒る」

「はいっ!?資料が……怒る?」

 室井は無言で“マル秘ファイルNo.57”を差し出す。

《県庁内 自動販売機と運勢の相関関係:ミルクティーを選んだ者が当日3回すべった記録アリ》

「……この手の書類を1日50冊読み込み、週報にまとめる。それが我々の任務だ」

「えっ!?えっ!?こんな電波な資料を!?本気で!?」

「電波?これは“歴史”だ。少なくとも誰かが真剣にふざけている」


 田辺はその日から、マル秘地獄に突入した。

《No.88:エレベーターの閉ボタンを連打する人間の心理について》

《No.106:会議室におけるイスの座り心地マップ(個人主観)》

《No.144:コピー機に「ありがとう」と言うと壊れにくい説》

「なにこの……官製都市伝説ファイル集……!」

「ようやく君も“こちら側”に来たな」

「なにその“覚醒”みたいなテンション!」


 ある日、いつものようにファイルを読み漁っていた田辺が、1冊の文書で手を止めた。

《マル秘ファイルNo.199:幸福カツ丼計画・極秘版》

「室井さん、これだけなんか分厚いです!まるで……カツの衣みたいに!」

「……!まさか、それが……」

 二人は慎重にファイルを開いた。

 中には、緻密なグラフ、分厚いレポート、アンケート調査結果、さらに――カツ丼のクーポンまで添付されていた。

「これは……“県庁で月3回以上カツ丼を食べた職員は、定年まで病欠がゼロだった”という…!」

「ほんとかよ!」

「しかもその後、“カツ丼を食べすぎてコレステロールの値が爆増した”という注釈も……」

「なんだその裏ドラみたいな展開は……!」


 田辺は勢いに任せ、上層部へ報告することを決意した。

「室井さん、これ、県全体に共有すべきじゃないですか?もしかしたら――」

「そのとき、突然だ」

 ブチッ!

 室井がファイルを破いた。

「“マル秘”は、“マル秘”のままであることに意味がある」

「ええっ!?」

「これは、日陰でこっそり笑う者たちの記録。表に出した瞬間、ただの“変な人たち”になる」

「いや、もう今でもけっこう変ですよ!?」


 その夜、二人はこっそり食堂へ向かった。

「……カツ丼、二つください」

「俺たちは表には出ない。しかし、味だけは確認しておこう」

 どこまでも、バカで、どうしようもなく真面目な“マル秘”たちの夜は、濃い卵と甘辛ダレの香りに包まれて、静かにふけていった。


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