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第96巻 市原市:イチハラノカミの願い

 千葉県市原市。
 工業団地と広がる田園が混在するこの街には、「願いをバランスよく叶える神様」が、しれっと暮らしている。

 その名は――イチハラノカミ。
 性格は真面目で穏やか、だが叶え方には妙な“中庸主義”がある。

 願いの内容が派手でも地味でも、「ちょうどよくしておきました」と微調整するため、
 結果的に何事も“無難でまあまあ”に落ち着くのだ。

 市原市内、ベッドタウンの一角。
 高校生の駿太は、早朝の駅でうめき声を上げていた。

「人生、波に乗りてぇ……! でも落ちたくねぇ……! バズりてぇ……でも燃えたくねぇ……! なんかこう、いい感じの注目浴びたいんだよォォ!!」

 その願いは――駅の掲示板に貼ってあった“お願い短冊”に書いて出したものだった。
 まさか、その裏にイチハラノカミが控えているとは思わずに。

 翌日。

 学校に行くと、なぜか彼の教室の空調がちょうどよくなっていた。
 座る席が“日当たりも陰も適度”な場所に変更。給食も“ちょっとだけ好物寄り”に。

「……ちょっとずつ快適……なにこれ、怖い……」

 更に、帰り道に立ち寄ったコンビニでは、
 駿太がレジに並んだ瞬間だけレジ待ちゼロ。

「いや、これは……まさか……」

 そこで、駿太の前に現れたのが、作業服のような神服を着たイチハラノカミである。

「願い、拝受しました。お望み通り、“そこそこ目立ってそこそこ無風”を目指します」

「目指すなそんな超限定路線!!」

「中庸の美、と言いますし……。あなたのSNSも、今日から“リアクションちょい増し”“コメント賛否半々”の仕様です」

 その後――

 ・駿太の自撮りに「既視感あるけどいい」と微妙にバズる
 ・文化祭では「やや目立つ位置の係」に自然と就任
 ・告白もされるが「まあまあ好き」で付き合うことに(本人も「まあまあ好き」)

 結果、人生はものすごく平穏かつ程よいスポットライトの中に安定。

 同級生からは「駿太ってなんか“気持ちよくうらやましい”んだよな」と言われる始末。

 ある日。

「……イチハラノカミ、ちょっと聞いていい?」

「はい」

「俺ってこのままずっと“まあまあ主人公”で終わるの?」

「はい。なにか問題が?」

「いや、問題はないけども!!もうちょっと波風あっても……」

「……わかりました。“風速3メートル”の人生に変更します」

「その風速設定やめてええぇ!!」

 市原市。
 今日も神様は、どこかの誰かの願いを――
 完璧すぎず、かといって失敗もせず、ぬるっと実現している。

 そんな“中間の神対応”が、
 意外と長生きの秘訣かもしれない。

 ──完──


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