見出し画像

少年マサル、非常に迷惑です

 朝の住宅街。
 どこからともなく響く元気な声――

「オッス! おらマサル、今日も登校拒否だ!」

 マサル(8歳)は、毎朝こう叫びながら玄関から脱走する。
 母は静かに玄関を締める。「まあ、30分後には戻ってくるでしょ」

 マサルは逃げる。走る。叫ぶ。
 だが、彼には特に理由がない。
「今日の給食がミネストローネだった気がする」とかそんな理由である。

 そんな彼に、地域住民は慣れていた。

「お、今日も“逃亡王子”のパレードだね」

 新聞配達の田中さんが、マサルにコーンポタージュの缶を投げ渡す。

「ミネストローネ回避、応援してるぞ!」

 ところが、その日は違った。

 マサルが逃げた先には、「ちょっと変な男」が立っていた。
 背が高く、帽子をかぶり、なぜか片手にトランペット。
 近所では“謎の音楽おじさん”と噂されている。

「やあ、少年。学校には行かないのかい?」

「おうよ! オラには自由が必要なんだ!」

「では、我がマーチングバンドに入団せぬか」

「今なんて?」

 その日から、マサルは音楽おじさん率いる謎のバンドに参加することになった。
 メンバーは他にも――

 ・貝殻カスタネットのばあちゃん(無言)
 ・三味線片手に寝てるじいさん(演奏中も寝てる)
 ・ツイン太鼓の双子(小学2年)

 そして、指揮は音楽おじさんこと、コンダクター鵜飼(うかい)。

 マサルはすぐに「シンバル担当」に任命された。

 理由:「うるさい子は、うるさい楽器が向いてる」

 最初は調子に乗っていた。

「シャバン! シャバンッ! どやぁ!」

 だが鵜飼は真顔で言う。

「違う、君の音はただの喧嘩だ。もっと……“風になるように叩け”」

「風ってシンバルで出る!?」

 練習は朝6時から夜9時まで(誰も時間を守らない)
 おやつはスルメ
 練習後の会話はすべて五七五(鵜飼の趣味)

 マサルは限界だった。

 ある日、マサルは母に泣きながら言った。

「学校のほうが楽だよぉおおお!」

 母は静かにココアを差し出す。

「明日はミネストローネじゃなくてカレーらしいよ」

「学校行く!!」

 マサルは次の日から、見違えるような登校王子となった。
 ランドセルを振り回し、全力で校門へ突撃する。

 先生が言う。

「なんか……憑き物が落ちたような目をしてるね」

 一方、マーチングバンドでは新たな逃亡児童が加入。

「やあ、君もミネストローネが苦手かい?」

「いいえ、僕は社会科見学が嫌で」

「ようこそ、楽器の地獄へ」

 こうして、謎バンドは今日も住宅街を歩きながら演奏している。
 たまにうるさすぎて交番に通報されるが、なぜか巡査がトライアングルで参加してくる。

 平和って、こういうのかもしれない。


いいなと思ったら応援しよう!

Goldness 楽しんでいただけることが一番の喜びです。いつもご覧いただき、ありがとうございます!これからも、皆さんと一緒に素敵な時間を共有できるように、より一層努力していきます。