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『拝み屋うっかり繁盛記』

拝み屋、それは現代における「なんでも屋」の最終形である。

 そう、誰も頼らない最後の砦。神も仏も役所もダメなら、うっかり辿り着いてしまう。そんな業種だ。

 私はその店主、拝み屋・念次郎(ねんじろう)。名前のわりに拝まれる側になったことは一度もない。

「すみません……ここ、"拝んでくれる"んですよね?」

 その日も、戸を開けて入ってきたのは、四十代前後の、見るからに疲れたサラリーマン風の男性。

「もちろんですとも! どんな祈願を?」

「上司が急に育休を取って……私に全部降ってきて……家にも帰れず……出世もせず……三日前、カップ麺が爆発しました」

「……は?」

「とにかく運が悪すぎるんです! 何でもいいから、運気を上げてください!」

 祈願の内容がすでにパニックだ。だが我々、拝み屋に不可能はない。というか、「可能」の基準がものすごく低い。


 祈りの儀式、それは演出だ。どこかの偉い坊さんも言っていた、「人は演出を拝む」と。

 私は手際よく、まずスモークマシンを起動。Amazonで買った3000円の中華製だが、煙だけは一丁前だ。

 そのあと、机の上に並べるのは、ありがたそうなアイテムたち——謎の石、回る風車、そしてLEDで光る仏像。

 「さあ、両手を合わせてください!」

 煙の向こうで男が小さく震えている。

 「願いよ……空をこえて……こいっ!」

 何の祈りだそれは。もう私は正直、五割くらい楽しんでいる。


 その瞬間、なぜか店の裏口から「ボンッ」という爆音がした。LED仏像の電池が逆向きだったか? いや違う。

 裏口から、もう一人の拝み屋・祖母(実家で同居中)が、煙まみれで出てきた。

 「念次郎ォ! お米炊き忘れて爆発したぞォ!」

 祈りの途中で米が爆発する拝み屋。客の顔が一瞬、般若になる。

 だが次の瞬間、彼はこう言った。

 「……なんか、すっきりしました。ありがとうございました」

 おい待て、それでいいのか。


 この日以降、うちの店はちょっとだけバズった。口コミにはこう書かれていた。

「本物の霊力とかじゃないけど、なんか元気になる店」
「煙がすごい。たまに爆発音がする」
「気休めで来たのに、スッとした。あと仏像が光るのが良い」

 ありがたやありがたや。祈りとは、受け取る側の自由なのだ。


 ある日、店にやってきた女子高生が言った。

 「恋の祈願ってできますか?」

 「できますとも! 相手の名前を教えてください」

 「山田涼介です」

 無理です。


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