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【bon11:山口県_大島音頭と「なんか混ざっちゃった」騒動】

「見てくださいこれ!青い空!青い海!ついでに青いかき氷!」
 はづきが旅館の前でかき氷を掲げている。色は……青を通り越して“藍”。
「いや、それもう海水じゃないの?」
 ジャニヤがスプーンで一口すくい、顔をしかめる。
「うん、塩分感じる。天然ミネラルっぽいね!」
「お腹壊すからやめて!」
 美琴が鋭く突っ込む一方、雄大は、というと。
「俺、今回こそ本気で優雅に踊るから。うねりのように舞うから」
 岩の上でなぜか“鶴ポーズ”を決めていた。
 海辺の盆踊り会場は、すでに地元の人たちでにぎわっており、輪の中央には、白装束の踊り子たち。
 その中心にいたのが――有陽。眼鏡をかけた物静かな青年で、何やらノートに踊りの分析を書き込んでいる。
「ええと……重心移動0.8、腕の角度42度……うん、前回より理想に近い」
「……踊りを数式で攻略しようとしてる人、初めて見たわ」
 小百合がぽつりと漏らす。
「……ていうかあれ、リスペクトの塊じゃん」
 拓朗が少し感動している。
 一方その頃、ケイデンが真剣な顔で看板を見ていた。
「“今日の演目:大島音頭、ソーラン節、謎の飛び入り自由曲”……って、なに“自由曲”って?」
「なんか怖いけど……まさか“飛び入り踊り枠”があるってこと?」
「……それ、雄大のためにあるやつじゃない?」
 全員がそっと雄大を見る。彼は、海の波に合わせて踊っていた。勝手に。
 そして、ちょうどそのタイミングで――
「はいっ、続きまして“自由曲”、どなたかご参加されますか~?」
 司会者がマイクで呼びかけた瞬間、
「はいッ!!」
 雄大が飛び出した。
「俺に……任せろォォォ!!」
 登壇、即踊り、そして大失敗。
「うわあああぁぁッ!海風が強すぎて袖が口に入ったぁ!」
 雄大、ステージ上で“優雅な鶴ポーズ”を披露しようとしたところ、突然の海風で袖が舞い、自分の顔を覆った。
 結果、踊りというより“もがく珍鳥”のような状態に。
「これは……神様も予想外だったでしょうね……」
 小百合がそっと目を伏せる。
「もはやこれは“供養”ではなく“供物”の領域……」
 啓が浜辺で寝転びながら呟いた。
 一方、有陽は冷静に雄大の踊りをノートにメモしていた。
「……あの無駄のない混乱、むしろ様式美かもしれない。いや、ないな」
 そして自由曲コーナー終了。
「……とりあえず、無傷だったのが奇跡だよね」
 ジャニヤがスイカバーを食べながら言う。
「踊り終えた後、観客から拍手じゃなくて“ご愁傷様”って声かけられてたよ」
 はづきが苦笑いしながら記録ノートを閉じる。
 だがその後――日が落ちて、本番の「大島音頭」が始まると、空気は一変した。
 ゆるやかなメロディ。控えめな太鼓。手拍子も足拍も、控えめで、けれど温かい。
「この踊り……“派手にやらない”ことが正解なんだね」
 小百合がつぶやくと、美琴も頷いた。
「……ちょっと背伸びするくらいがちょうどいいのかも」
 そして輪の中、さっきまで暴れていた雄大が――
 全く目立たない場所で、静かに、動きを真似しながら踊っていた。
 肩に力は入っていない。足の運びも不安定。だけど、誰よりも“周囲に合わせよう”という気持ちが出ていた。
「なんか……わかりやすいな、あいつって」
 拓朗がぽつりと言う。
 その隣で、有陽がぽそりとつぶやいた。
「……ああいう人、嫌いじゃない」
 そう言って、少しだけ頬が緩んだ。
 輪の外で司会者が言う。
「この踊りは、“誰かの背中を見て覚えるもの”なんです。だからこそ、言葉じゃなく、動きで伝えるのが大事なんです」
「……雄大、言葉より体で覚えるタイプだもんね」
 ジャニヤがやけにしみじみ言う。
 その日、大島の夜は、しずかに更けていった。
 ――なお、雄大の鶴ポーズだけは町の掲示板に“要注意踊り”として貼り出されたという。
(bon11:End)


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