第152章 上越市:ジョウエツノカミの雪かき・完全手動主義
上越市に冬が来ると、世界がモノクロになる。
真っ白な雪、灰色の空、しんと静まり返る朝。誰もがうつむきがちになるこの季節に、ひとり黙々と“本気の雪かき”をしている神様がいた。
「……ん。30センチ、誤差なし」
ジョウエツノカミ。上越の山と雪を愛する冷静で真面目な神様だ。
性格はどこまでも几帳面。願いは必ず“雪景色を添えて”叶えるが、その添え方がとにかく過剰。しかも、技術より手作業にこだわるため、周囲が勝手に振り回されることになる。
この日、彼のもとに届いたのは、ある町内会からの悲鳴だった。
【願い】
「今年も雪かき担当のシフトが決まりません。誰も来ません。助けてください(会長・兼・雪かき要員)」
「了解……雪かき、わたしがやろう」
「えっ……!? ほんとに……!?」
「ただし、“完璧”にやります」
この一言が、のちに町全体を凍らせることになる。
翌朝、町内の通学路に変化があった。
子どもたちが目を見開く。
「な、なにこれ……スケートリンク?」
路面はツルッツル、鏡のような氷の道。
ジョウエツノカミは前夜、一晩かけて雪を削り、道幅2.5メートルの「氷上滑走用安全通路」を作成していた。
「これなら転ばずスイスイ。しかもエコ」
「すべる!逆にすべる!!」
町内は朝から“地味に負傷者続出”。子どもたちは“体育で鍛えた姿勢”でなんとか突破。
だが大人は──
「うぉっしゃああああ!」
シフトに遅れたサラリーマンが、真顔でお尻からゴール。
神様、満足げ。
次に神が手をつけたのは、町内の公園だった。
その願いはこうだった。
【願い】
「子どもが外で遊べないと暴れるので、なんとか屋外遊び場を作ってください(保護者一同)」
「了解……雪で、“戦略的遊戯構造”を組み立てます」
「え、なにそれ怖い」
──3時間後。
公園には「雪製・要塞型すべり台」が完成していた。高さ4メートル、三段構造、途中で雪の壁から出てくる“隠しトンネル”つき。
「コ、コンセプトは?」
「“雪原サバイバル”。遊びながら鍛えられる」
子どもたちは目を輝かせた。
「いくぞー!全員サバイバル配置につけー!」
「わかった隊長ー!」
なぜか戦場ごっこが始まり、遊具は大人気。
……ただし、保護者からは微妙な声が。
「うちの子、全身びしょびしょで帰ってきたんですけど……」
「想定内。雪はそういうものです」
その日の夕方。
神が最後に向かったのは、駅前ロータリーだった。市役所からの祈願である。
【願い】
「ロータリーの雪、除雪車が来れません。急ぎ処理をお願いします」
ジョウエツノカミは静かに腰に巻いていた“古式雪かき鍬”を構える。
「除雪、やります」
「人力で!?」
市職員が止める間もなく、神は黙々と、実に2時間かけて、ロータリーを手作業で磨き上げた。
──結果。
駅前には「神の手により完璧に整えられた、まるで巨大盆栽のような雪庭園」が完成。
「これ……除雪じゃなくて、“雪の作品”ですね……」
「心の雪も、溶かしたいんです」
──職員、涙。
夜、ジョウエツノカミは山の上に戻り、静かに湯たんぽを抱きしめていた。
《本日成果
・通学路:滑走可能(やや転倒多発)
・公園:遊び場確保(服装びしょびしょ率100%)
・ロータリー:芸術化成功(除雪の定義は議論の余地あり)》
「ふむ……人々の生活に、ほんの少しの混乱と美を……。完璧や」
──その言葉とともに、空からふたたび雪がしんしんと降り始めた。
神の“手作業”は、明日も続く。
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