「妖刀・鶴屋影真斬」
――「これ、短刀じゃないですか?」
田舎町の古民家を改装したカフェ「スミレブレンド」で、突然そう声を上げたのは、常連の大学生・優馬だった。手にしていたのは、間違って注文された「小豆入りぜんざい」のお盆に、何気なく置かれていた金属のかたまり。
店主の澤田は、ぽりぽりとおかきをかじりながら、のんきに答えた。
「ん? ああ、それ? うちの床下から出てきたやつよ。昔この店、武士の家だったらしくてね。たぶん護身用だろうな」
「そんなサラッとした感じで出していいものじゃないでしょ!銃刀法的にアウトでは!?ていうかこれ普通に刀剣類でしょ!?」
「え?でも刃ついてないし、重いし、飾りだと思ってたんだけど」
「うっすら銘が刻まれてるし、“妖刀”って書いてありますよ!」
「え、うそ。……ほんとだ。“妖刀・鶴屋影真斬(つるやかげまさきり)”。なんか昔の同人誌のキャラみたいね」
「そんなセンスの話じゃなくて!」
そこへ、毎朝モーニングを食べに来るご隠居・大蔵がやってきた。新聞をめくりながら短刀を一瞥し、「お、懐かしいもん出てきたな」とつぶやいた。
「え、知ってるんですか!?この短刀!」
「ああ、そりゃもう。昔、地元の中学生が『この刀を持つと居合ができるようになる』って噂を信じて、竹刀代わりに使って大騒ぎになったんだわ」
「なにその呪われた部活エピソード!」
「“切れ味はゼロ、存在感だけ一流”って有名だったな。どんな道場でも追い返される伝説の残念刀よ」
「それどっちかというと平和で安心しました……」
すると、カフェの入口ががらりと開き、一人の中年男性がずかずかと入ってきた。長髪を後ろで縛り、和風のジャケットを着たその男は、開口一番こう言った。
「その刀……我が家に代々伝わる鶴屋影真斬!ついに見つけたぞッ!!」
一同、静まり返った。
優馬は半笑いで言った。
「えっ……え、マジで?」
「マジもマジ、大マジだ!俺の名は鶴屋剛(つるやつよし)!この刀はかつて、祖父が酔っ払って居酒屋に置き忘れ、その後なぜかここに流れ着いたという経緯を持つ……」
「居酒屋!?そこからカフェへ!?流通経路がカオスすぎる!」
「とにかく返してほしい!この刀は、我が家の家宝!呪われていようとダサかろうと!俺には必要なんだ!」
「なにに使うんですか?」
「……居酒屋開業の看板に」
「もっとダサい使い道だったーー!!」
鶴屋剛は、真剣な顔で続けた。
「『居酒屋・影真斬』。渋すぎて怖くて客が入らないが、看板にこの短刀をぶっ刺せば、インスタ映え確実!“この居酒屋、ガチでやばそう”って逆に若者が来る!」
「逆張りマーケティングだ!」
「……あと、割りばし入れにしたらかっこよくね?」
「だめだ、もう発想が昭和の特撮ヒーロー!」
澤田は少し考えてから言った。
「でも、せっかくだから使ってあげたほうが刀も喜ぶかもしれないね。大蔵さんも文句なさそう?」
「わしはもう、あの刀がバターを切れずに折れたのをこの目で見たからな。好きにするといいわい」
かくして、短刀「鶴屋影真斬」は無事(?)鶴屋家に戻された。
しかし、それから一週間後——
「ちょっと大変よ!『居酒屋・影真斬』が……“刀が刺さってる看板を見た通報者”のせいで、警察に連れていかれたって!」
「えっ」
「『銃刀法違反疑い』で調書取られたらしいわよ。剛さん、泣きながら『これは伝説の短刀なんですぅ〜』って叫んでたって!」
優馬は天を仰いだ。
「……だから言ったのに……」
そして今日も「スミレブレンド」には、カウンター奥の壁に、復帰したばかりの短刀が飾られている。
その下には、新たにプレートがついていた。
『妖刀・影真斬:斬るより笑いを取ることに成功した、世界初の“非戦闘型伝説刀”』
そして、澤田のつぶやき。
「うん、やっぱりこれ、うちの店で一番尖ってるわ」
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