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第30巻 鹿児島市:カゴシマノカミの願い

 鹿児島の空に、桜島の噴煙が今日もゆったりとたなびいていた。
 火山の恵みと共に暮らすこの街の人々は、自然の厳しさと豊かさを身近に感じながら生きている。
 そしてこの地には、火山と温泉をこよなく愛する、熱血かつ豪快な神様――カゴシマノカミがいる。

 彼の願いの叶え方は、いつも熱く、そして派手だ。
 その結果は期待以上だったり、ちょっと過剰だったりする。だが、そこに込められた情はいつだって本物だった。

 拓也は地元の温泉旅館で働く若者で、どこかクールに見えて、実は悩みを隠しがちだった。
「もっと自分の想いをお客様に伝えられるようになりたい」
 そう願った日の夜、旅館の中庭に突然、噴火を模したような噴湯のオブジェが出現した。

「どげんかせんといかん、ちゅー願いやろが!」と、カゴシマノカミが豪快に現れた瞬間だった。
 スタッフたちは混乱しつつも、そのオブジェが人気を呼び、客足が増えたことで文句も言えずにいた。

 拓也も戸惑いつつ、客と接する機会が増えていく中で、少しずつ素の自分を出せるようになっていった。
 すみれは慎重な性格ながら、拓也の変化を温かく見守った。
 昌泰は筋が通った考えを大切にしていて、拓也の不器用ながらも誠実な接客を評価していた。
 津加沙は他人の気持ちに敏感で、拓也が心を開こうとする瞬間を逃さず、優しくサポートした。

 旅館では、拓也が中心となって企画した「桜島風呂ツアー」なるイベントが始まった。
 露天風呂から桜島の噴煙を眺めながら、お客様に火山の恵みと語りかける趣向で、意外にも大人気を博した。

 最初は言葉数の少なかった拓也も、次第に自分の言葉で鹿児島の魅力を語れるようになっていった。

「ここは、火山の町です。でも、その熱さが人をあったかくするんです」

 そんな拓也の一言に、遠方から来た客が「また来ます」と笑顔で言ってくれた。

 すみれはそれを聞いて微笑み、
「伝わるって、素敵なことだね」とつぶやいた。

 昌泰は、「筋が通ったことをやってる奴には、ちゃんと評価がついてくる」と背中を叩いた。
 津加沙はそっと「言葉が届くって、嬉しいよね」と優しく言った。

 カゴシマノカミはそんな光景を見ながら、空に向かって大きく伸びをした。
「まっこて、こいがよか。願いっちゅうんは、心の火口ば開けるもんじゃ」

 その夜、旅館の裏手では、小さな足湯が自然に湧き出した。
 地元の人たちはその湯に足を浸けながら、笑い合い、語り合い、また明日へと歩み出していく。

 拓也はその光景を見て、自分の願いが叶っただけでなく、誰かの心にも温もりを灯せたことに気づいた。

「ありがとう、カゴシマノカミさん」

 神様は応えることなく、しかし確かにそこにいた。
 火山の灯りがゆらめく夜、鹿児島の街には静かで力強い熱が、やさしく満ちていた。


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