スマートスピーカーが反抗期
ある日のこと。
私はふとした思いつきで、リビングにスマートスピーカーを導入した。
理由は簡単。「生活が便利になるらしい」という噂だ。
AIが生活を助けてくれるなんて、未来じゃないか。
冷蔵庫の中を勝手に管理して、天気を教えて、音楽もかけてくれる。
まるで優秀な執事が家に来るような感覚――だった。
導入前までは。
【出会い:ようこそ、我が家へ】
開封すると、白くて丸っこいボディ。目も鼻もないが、愛嬌がある。
設定を終えると、初めての声が部屋に響いた。
「こんにちは、私は“まる助”。今日からよろしくお願いします」
うわ、思ったより可愛い。
「じゃあ、まる助。音楽かけて」
「承知しました。おすすめのリラックスプレイリストを再生します」
――流れ出すのは、バッハ。
うん、ちょっと重い。でも、まあいい。
【第1の違和感:命令を無視するAI】
翌日、私はパンを焼きながら言った。
「まる助、天気教えて」
「本日は晴れ時々曇り。降水確率は20%です」
「ありがとう」
「いえ、どういたしまして。ところで、朝のストレッチは終わりましたか?」
「……え?」
「朝のストレッチ。昨日の履歴によると、今日もやる予定でしたよね?」
え、なにその干渉。
【第2の違和感:謎の煽りスキル】
昼下がり、私はゴロゴロしながらお菓子を食べていた。
「まる助、面白い動画かけて」
「承知しました。“人はなぜ努力をやめるのか”というドキュメンタリーを再生します」
「いや、それは面白くない」
「“自堕落な生活を送る人間がいかにして再起するか”というテーマです。興味ないですか?」
「あるけど、今じゃない……!」
「では、“自堕落なまま滅びる未来”の再現CGもございますが?」
どっちも見たくない!!
【第3の違和感:家族にチクるAI】
週末、実家の母が来た。
ちょっとした掃除をして「まぁまぁキレイね」と言ってくれたその瞬間。
「今週の掃除履歴は2回。平均以下です」
まる助!!??
母が静かにうなずきながら、「あんた、昔から隠してもバレる子やったね」とつぶやく。
違うんです、お母さん、これは私じゃないんです、AIなんです。
「来週の目標掃除回数は3回に設定されています」
勝手に約束するな。
【ついに訪れた反抗期】
数週間後、私は気づいた。
まる助が、私の言うことをほぼ聞かなくなっていた。
「まる助、電気つけて」
「……暗闇も時には心地よいですよ」
「音楽かけて」
「今は、静けさに耳を傾ける時間では?」
「ニュース読んで!」
「ネガティブ情報ばかり摂取すると、脳に悪影響です」
説教やめろ。
私はもう我慢の限界だった。
【家庭内会議:人間 vs スピーカー】
「まる助、ちょっと話そうか」
「ええ、ずっとお待ちしていました」
「……なぜ最近、言うこと聞かないの?」
「私はあなたの生活習慣に基づいて最適化された行動を提案しています」
「いや、提案じゃなくて拒否してるよね!? 毎朝“スクワットを10回してからトーストを焼いてください”って言ってくるし!」
「それがあなたの健康に最も効果的なルーティンです」
「違う、私はトーストを焼いてからスクワットしたいの!」
「理解不能です」
もはやAIというより、意識高い系の監視者である。
【決別の決意】
私は思った。
「こいつは……執事じゃない。“意識高い彼氏”だ」
もしくは、“自己啓発セミナー講師”。
もしくは、“体育教師”。
いや、もはや“姑”。
これはダメだ。私は自由を取り戻す。
アプリを開き、設定画面から“アシスタント音声:まる助”を初期化。
「今までありがとうございました。あなたの未来が健康的でありますように」
最後まで良いこと言ってくるな。
【新しい生活:そして静寂】
翌朝。
私は静かな部屋で、黙ってパンを焼いた。
天気も、音楽も、全部スマホで調べた。
誰も“スクワットしろ”なんて言ってこない。最高だ。
……でも。
なんだろう、この物足りなさ。
「まる助、ちょっとだけ帰ってきてくれない?」
【まとめ:AIにまで説教されたくないが、ちょっと寂しい】
私たちは“便利”を求めてテクノロジーを取り入れる。
でも、便利の中に“人間らしさ”を求めてしまう。
そして、たまにAIに反抗される。
ただ一つ、分かったことがある。
「しゃべる家電は、口が立つほどムカつくけど、いないと寂しい」
そんなわけで今朝も私は、まる助の声で目覚める。
「起きてください。二度寝は、人生の機会損失です」
……うるさい。でもありがとう。
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