放射能男、恋をする
「俺は……放射能だ」
そう名乗る男が、突然市役所の相談窓口に現れたのは、6月のよく晴れた午後だった。
その名も光野アキラ。38歳、独身。自称「人間放射線源」である。
「待ってください、職員の健康管理の観点からも、窓口での“放射”はご遠慮いただきたいんですが」
「違うんです!俺の内側にあるのは物理的放射能じゃなくて、“心の放射能”なんです!」
……また来たよ、この人。
市民生活課では密かに“週一スペシャル”と呼ばれていた。どんな相談も最後は「俺、放射能だから」で締めくくられる。
「で、今日の相談内容は?」
「婚活についてです」
「……えっ」
光野アキラは語る。
「僕はこれまで、25人の女性にフラれてきました。その全員が言うんです。『あなた、なんか“放ってる”』と」
「それ、モテの兆しじゃ?」
「違うんです、明らかに避けてる!レストランで店員が僕の横を回り道する!歯医者では麻酔が効かない!犬は吠えるし、自販機のジュースは出てこない!」
……それは別の問題な気がするが。
「で、どうしたいんです?」
「婚活パーティーに行くから、事前に“放射能検査証明書”をください!」
「えーと、ウチ、そういう証明出してないです」
それでも諦めないのが、光野アキラの強さだった。
彼は勝手に「低放射性恋愛ガイドブック」なる冊子を自作し、市内の婚活イベントに突撃した。
キャッチコピーは「光ってる男は、内側も熱い」。
その結果。
3人から通報された。
イベント主催者は市役所に電話してきた。
「“心が放射能”ってどういう意味なんですか!?目がチカチカするとか言われてますよ!」
「すみません、彼、発光素材とか使ってませんよね?」
「使ってます!ジャケットに反射材ベスト貼ってました!」
それでも——なぜか、出会いはあった。
一人の女性が言ったのだ。
「その……あなた、蛍光塗料のベスト着てるけど、ちゃんと“自分が変だ”って自覚してるんですね」
「ええ、変だって言われすぎて、逆に自信になりました」
「私、そういうの、好きです」
その人の名は野火カスミ。32歳、理科教師。
「ちなみに……私、物理専攻だったんですよ」
「おおっ、じゃあ放射能の扱い方、詳しいんですね!」
「はい。“半減期”って言葉、知ってます?」
「もちろん!だいたい5年くらいで“愛され力”も半減して、7年で“親しみ”がゼロになりますよね!」
「違います、それウチの元カレの話です」
気づけば二人は、意気投合していた。
その後の交際はスムーズだった。
・彼女は「原子力と恋愛は予測不能」という理論で、彼の奇行にいちいち驚かない。
・彼は「彼女は鉛の防護服のように、俺の妄想を遮蔽してくれる」と大絶賛。
・そして市民生活課では、「放射男、リア充化」として壁新聞まで作られた。
だが、事件は起きた。
ある日アキラが言ったのだ。
「僕、プロポーズします。場所は、放射線管理区域風のカフェで!」
「それ、どうやって探したの!?」
「DIYです!警戒線のテープ買ってきて、机に線量計風スマホ置いて、“放射線量、上昇中……”って効果音出して!」
結果。
プロポーズは成功したが、近所の通報で消防が出動した。
「カフェに謎の黄色テープ!何かが漏れてる可能性アリ!」という通報だった。
現在——
光野アキラと野火カスミは、“低線量夫婦”としてSNSで活動している。
・共著:「恋はエネルギー保存の法則」
・講演:「付き合っても崩壊しない関係とは」
・YouTubeチャンネル:「放射する日常」も開設
彼らのモットーはこうだ。
「異常を愛せ。正常は飽きる」
たしかに、彼らの放射は止まらない。
だがそれはもう、誰かを遠ざけるものじゃなく、
そっと照らす、あったかい光になっていた。
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