転スラしたらモテ期が異常だった件
気がついたら、俺はスライムになっていた。
ぷるん。
「なんだこの丸い感触は……?」
記憶がぼんやりしているが、確か俺はブラック企業の長時間労働により、パソコンの前で“Ctrl+S”を押しながら力尽きたはずだ。
それが今、森の中でスライム。しかも、やたらとぷにぷにしてて、体温もなくて――なんか妙に可愛い。
「ま、まあ、転生ってやつか……最近流行ってるしな……」
そう納得しようとしたその瞬間。
「キャァァァァァァァァ!! きゃわわわ!! きゃわいいイイイイイ!!」
木々の向こうから飛び出してきたのは、目をハートにしたゴブリンの群れ。
「やだ……このスライム……つるぷに……!!」
「もふりたいぃぃぃ!」
「抱きしめたい……いや、もはや吸収されたい……!」
えっ、なんか認識がおかしい。
「ま、待って! 俺は戦闘能力ゼロのただの転生者なんだ! 仲良くしよう!」
だが、彼らの耳には届かない。なぜならスライムは声が出せないからだ。悲しき転生者、第一試練にして絶望。
*
逃げる俺。追うモンスターたち。
森を抜けても、草原でも、町の近くでも、出会う者出会う者、みんな俺を見るとハート目になる。
オークの戦士:「きゅるん……そのぷるるん感……惚れた……」
魔族の女王:「我が生涯に一片の悔いあり……唯一の後悔、それはお前を早く知れなかったことだ!」
スライムってそんなに需要あったっけ!?
俺は震えながら、隅っこの洞窟に逃げ込んだ。
「……はぁ……安全地帯……やっと静かに……」
「くんくん……このスライム、今すごく必死な顔してる……」
「は!? 誰!?」
振り返ると、そこにいたのはリザードマンの少女、暖(ダン)。顔を近づけてきて、俺を見つめている。
「だって、さっきから“助けてくれ”って顔してる。あ、違う、“ちょっと寝たい”かも」
「すごいな君、スライム語分かるの?」
「……いや、近い距離感で察するの、得意なだけ」
言葉少なに、でもやたら近距離で俺に迫る暖。スライムの体液に頬を押し当てながらニコニコしている。やばい。距離感が壊れてる。
「しばらくここにいてもいいよ。外はうるさいでしょ?」
「ほんと助かる……」
「……あ、喋った?」
「あっ……なんか、君の安心感で言語スキルが覚醒したかも……」
「それはよかったね〜。じゃあ、今日から一緒に暮らそ」
「えっ」
*
それからというもの、俺は洞窟で暖と同居しながら、時々訪れる“モンスターファン”たちから逃げる日々を送っている。
ある日は巨大ミノタウロスが
「私のために、そのぷにぷにを常温保存させてくれ!!」
と叫びながら突入してきたり、
ある日は天空のハーピー三姉妹が
「空飛ぶスライムカフェを開きたいの!」
と高笑いしながら拉致を試みたりした。
だがそのたび、暖が言う。
「この子、私のだから」
その“圧”にみんな引き下がる。俺は暖の後ろで、全身ぷるぷる震えながら感謝していた。
*
ある日、静かだった洞窟で暖がぽつりと呟いた。
「……ねえ、龍成(りゅうせい)」
「な、なに?」
「私、ずっと一人で生きてきたんだ。人との距離がわからなくて、いつも変だって言われた」
「そうだったんだ……」
「でも、龍成はさ、全身で感情が出るからわかりやすくて、なんか……落ち着く」
俺は思った。転生してスライムになって、色々ツラかったけど――
「ありがとう、暖」
「……うん。じゃあ今日もお腹の上で寝ていい?」
「いいけど……できればそろそろマットレス使おうよ、君が」
「えー、ぷにぷに最高なのに〜」
スライムは今日も、過剰なモテ期と共に生き延びている。
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