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チェックおじさん、チェックアウトす

「よし、今日もチェック完了!」

 そう叫んで立ち上がったのは、職場の伝説──通称「チェックおじさん」。

 本名は田口信雄、58歳。趣味はToDoリスト、特技は赤ペンチェック。

 彼のデスクには、常に“紙のチェックリスト”が山積みになっている。しかも、全部に✔️がついている。どこか誇らしげで、すごく……自己満足の香りがする。

「人生、すべては✔️のためにあるからな」

「いや、その哲学怖いですよ田口さん」

 ある日、新人の三宅が朝礼でうっかり言ってしまった。

「え〜、業務効率のため、今後は“紙のチェックリスト”を廃止して、全社的にデジタル化します!」

 フロアの時間が止まった。

 田口信雄、フリーズ。

 握っていたジェットストリーム(4色ボールペン)の芯がカチッと空回りした。

「……ん? もう一回言ってみ?」

「えっ? あの、ええと、“紙の”リストは廃止にして、“アプリの”チェックボックスに――」

「否!!!」

 その日の昼休み、田口は怒涛のプレゼンを開始した。

 プロジェクターにスライドを映し、タイトルはこうだった。

『紙チェックの可能性』

 スライド1枚目:✔️
 スライド2枚目:✔️✔️
 スライド3枚目:✔️✔️✔️

 内容がゼロ。

「君たちは知らない。“手で✔️を入れる”という快感を!!」

「しかも、力加減で感情が伝わる。強く✔️すれば怒り、弱く✔️すれば慈愛! 紙は人格だ!」

 若手たち、若干ひいていた。

 上司の佐伯課長が小声で言った。

「……田口くん、そういうのは“note”とかでやって」

 だが田口は止まらない。

 社内の冷蔵庫に「冷蔵庫チェック表(田口式)」を貼りだし、牛乳を✔️、卵を✔️、そしてなぜか「情熱」と書いた欄も✔️。

「冷蔵庫に情熱は無いだろ!!」

「いや、冷やされた情熱は熱いんだ」

 冷蔵庫、混乱。

 翌日、社内に「チェック警報」が出る。

 田口のチェックシートが各所に拡散し、給湯室、会議室、果てはトイレの個室にまで出没。

「便座の温度 ✔️」

「紙の残量 ✔️」

「自分の人生 ✔️」

「うるさいわ!!」

 社内は“チェック疲れ”に陥っていた。

 三宅が意を決して直談判した。

「田口さん、いくらなんでもチェックしすぎです! 紙を使うならせめてエコに!」

「……なるほどな。ならば逆に考えるんだ」

「え?」

「“すべてにチェックすれば、無駄はゼロだ”と」

 おじさん、エコの方向性まちがえた。

 その週末、ついに事件が起きた。

 社内のスキャナーが勝手に“チェックシート化”されていた。

「自分の気持ち ✔️」

「明日への希望 ✔️」

「田口信雄 ✔️✔️✔️」

「“✔️の過剰摂取”って何!?」

 もはや社内は“田口信雄に支配されたRPGの村”のような様相。

 佐伯課長、泣く泣く伝えた。

「田口くん、ちょっと……異動になってくれない?」

「……ふむ。“異動 ✔️”と」

 その瞬間、田口信雄、満面の笑みでガッツポーズ。

「完璧な✔️が、ついたな!!」

 彼は異動先の総務部で「備品管理」に任命された。

 そして1ヶ月後。

 全社員に配布されたのは、特製「備品✔️ノート」。

 ・ホチキス✔️
 ・ティッシュ✔️
 ・自尊心✔️

「もうやめて……!」

 だが、誰かがそっとつぶやいた。

「……でもこの人がいると、なんか安心するよね」

 確かに。

 必要なものには✔️があるし、要らないものにも✔️がある。

 つまりは──

「人生、だいたい“✔️”でいいんじゃね?」

 チェックおじさん、今日もどこかで✔️を刻む。

 そしてまた、静かに去っていく。

「……チェックアウト、✔️」


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