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第21話 天王寺駅の駅神様

  JR・地下鉄・近鉄、さらに阪堺電車まで入り乱れる大阪の南の大拠点、天王寺駅。あべのハルカスの大きな影の下で、人の流れはいつだってぐるぐると渦を巻いている。
 ここを守る駅神様は、関西芸人そのままの風貌をしたおっちゃんだ。派手なスーツに蝶ネクタイ、手にはツッコミ用のハリセン。
「さぁさぁ、本日も開演や! 人の流れもボケもツッコミも、全部まとめて仕切ったるで!」
 朝、御堂筋線からJRへの乗り換え客がドドッと押し寄せる。駅神様は梁の上からハリセンを振り下ろし、「整列せぇ!」と叫ぶ。人には聞こえないが、偶然そこに立っていた駅員が「はい、二列にお並びください!」と声を張り、流れは見事に整う。
「よっしゃー! ナイス阿吽の呼吸や!」
 午前中、観光客がスマホを掲げてつぶやいた。
「ハルカス? 動物園? どっちから行くんや?」
 駅神様はにやりと笑い、ハリセンをパシッと叩く。すると、ちょうどガイドブックを持ったおばちゃんが通りかかり、「動物園はあっちやで」と案内する。観光客は歓声を上げて走り出す。
「はい出ました、“おばちゃんガイドサービス”! 大阪名物や!」
 昼時。駅ナカのたこ焼き屋に長蛇の列ができ、サラリーマンが「間に合わん!」と嘆いている。神様はハリセンで額をぽんと叩き、「ほな今日は串カツや!」と念じる。すると偶然、隣の串カツ屋に空席が出て、サラリーマンは「ラッキー!」と飛び込む。
「よっしゃ、胃袋も臨機応変やで!」
 午後、ホームで外国人観光客が迷っていた。
「シテンノウジ? ハウツーゴー?」
 神様は頭をかき、「四天王寺はちょっと歩くんやけどなぁ」とつぶやく。と、その時、地元の高校生が「出口こっちっす」と自然に声をかけ、観光客は感激して写真を撮る。
「よし、地元の若者も立派なアシスタントや!」
 夕方。帰宅ラッシュが始まり、南海方面へ急ぐ人々と近鉄に向かう人々が交錯して大混乱。神様は思わず舞台に立つ芸人のようにハリセンを乱打した。
「はいストップ! JR組はこっち、近鉄組はそっち! 間違えたら“どついたろか!”」
 ちょうどその瞬間、アナウンスが流れ、「近鉄線は東改札口をご利用ください」。人々はぞろぞろ分かれ、奇跡的に流れがスムーズになった。
「ほら見てみぃ、笑いも交通整理も“間”が命や!」
 夜。ネオンが灯り、動物園帰りの家族連れやハルカス展望台帰りのカップルが駅に戻ってくる。神様は梁の上でハリセンを折りたたみ、大きく伸びをした。
「天王寺は、笑いと観光と通勤がごちゃまぜや。でもそのごちゃまぜが大阪らしさやな」
 そして、誰もいなくなったホームに向かって高らかに叫ぶ。
「明日も舞台は満員御礼や! 天王寺座長のワイが、全部まとめてツッコんだるで!」
 その声は人には届かない。けれど、駅を出ていく人々の足取りには、どこか舞台を見終えた後のような軽やかさが宿っていた。


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