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上司、チャットでボケてくる

 それは朝の社内チャットから始まった。

 上司(58歳男性)がSlackに現れ、
 「おはヨーグルト」と送ってきた。

 誰も反応しなかった。

 正確には、誰も「できなかった」。
 なぜなら、あまりにも急なボケだったからである。

 うちの会社はIT系。SlackやZoomが日常で、
 絵文字やスタンプも普通に使われている。

 が、それでも「おはヨーグルト」は斬新だった。
 しかもその後、上司はこう続けた。

「今日もがんバナナでいこう🍌」

 ここにきて果物コンボ。
 脳内ではたぶんリズムよく出てきたのだろう。
 でも受け取った部下たちの心は、完全に朝からミュートだった。

 私は困った。
 このままスルーしていいのか?
 何か返した方がいいのか?

 先輩がそっと耳打ちしてきた。
「去年の冬、誰も反応しなくて“チャット寒いな”って言われたらしい」

 それは……つらい。

 私は勇気を出して、こう返した。

「おはヨーグルト!今日もとろける気分でがんバナナします🍌✨」

 ……我ながら、言ってて恥ずかしい。

 だが、すぐに返ってきた。

「さすが君はアボカド級にやる気があるね🥑」

 アボカド級って何!?

 その日から、上司の果物ボケチャットが始まった。

 ◆翌朝
「今日もフルーツフルな一日にしよう🍎🍇🍊」

 ◆定例ミーティング
「時間ぴったり、グレープフルーツ並みに爽やか!」

 ◆週末前
「明日はパイナップルでパーっといこう!」

 もう、果物縛りのダジャレ地獄。

 社内は混乱した。
 特に若手社員たちは、「これは返すべきなのか」会議を非公式で開いたほどだ。

「笑うべき?スルー?スタンプだけで逃げる?」

 結論:“🍍だけ押しておく”が最適解という謎の合意が生まれた。

 だが、事態は加速する。

 上司が新しいスタンプを自作し始めたのだ。
 自分の顔写真を加工した「OKバナナ」や「パイン上司」など、
 妙に画質のいい果物顔合成スタンプが朝から投下される。

 誰かが一度「面白いですね!」とリアクションしてしまったが最後、
 次の週には「スタンプ30種・果物テーマ別」フォルダが社内に共有された。

 正直、最初は戸惑った。
 いや、今も戸惑っている。
 だがある日、ちょっとした事件が起きた。

 チャットの挨拶に、若手のAくんがこう返したのだ。

「今日はスイカみたいに爽快に資料提出します🍉」

 上司「おっ、いいね!スイ活してこう!」

 その日、Aくんの評価が爆上がりしたらしい。
(本人談)

 それをきっかけに、社内はだんだんフルーツ化していった。

 ・「グレープ案件、今日出します」
 ・「ライチ並みに資料甘くなっててすみません」
 ・「ミカンで一息つきましょう🍊」

 最初は苦笑いだったのに、気づけばみんな味を占めていた。

 先週の全体会議では、とうとう
「今月の成果を“果物”に例えると?」というコーナーが生まれた。

 上司「うちは今、桃レベルだね」

 部下「私はキウイです」

 新人「バナナ(皮付き)です!」

 もはや職場がフルーツバスケット。

 でも、ひとつだけ真面目なことを言わせてほしい。
 このフルーツ文化が根づいてから、社内がほんのり明るくなったのは事実だ。

 朝の挨拶が“儀式”じゃなくなった。
 雑談のきっかけが自然に増えた。
 会議も、ちょっとふざける余白ができた。

 上司が「くだらない」と言われる覚悟で最初にボケたおかげで、
“寒い”の先に、ほんの少しの“温かさ”が生まれた気がする。

 今日の朝も、Slackにはこう書かれていた。

「今日もいちごーいちえ🍓 みんなで実りある一日にしよう!」

 たぶん、上司のパソコンには「果物ダジャレ辞典」のタブがずっと開きっぱなしになっている。

 ありがたいような、こわいような、
 でも、やっぱりちょっと笑ってしまう。

(End)

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