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【bon32:高知県_よさこい節と“裏方逃走魔法使い”】

「よさこい よさこい〜♪」
 高知のアーケード街は、どこを見ても踊り手だらけだった。
 地元の高校生、企業の人々、果ては旅館の仲居チームまで、全員が鳴子を持って踊っていた。
 そんな中――
 小百合はアーケードの柱の陰に、完全に張り付いていた。
「……無理。ぜっっったい無理。私、あのテンション、骨折れる」
「小百合〜! ピンク隊がスカウトに来てるよ〜!」
 笑顔で駆け寄ってきたのは、はづき。
 多角的な視点で場を見渡すその眼は、すでに小百合の“戦意喪失”を見抜いていた。
「無理ですってば! 私、ああいうのは“遠くで見て泣くタイプ”なんです!」
「でももう名前書かれちゃってる」
「名前って何!? え、名簿!? よさこい名簿!? えっ!?」
 そのとき、ビカビカの鳴子を両手に持った、ピンクの全身タイツ集団が現れた。
「いたぁ〜〜っ! 伝説のバックダンサー“さゆり”さんじゃないですかぁ〜!」
「誰!? 私そんな異名ない!!」



「鳴子を持てば、あなたも今日から主役ですっ!!」
 ピンク隊のひとりが、まばゆいばかりの笑顔で鳴子を差し出した。
 それはもう、エンタメ業界でスカウトされたアイドルのような勢いである。
「えっ、あっ、いや、その……私はどちらかというと裏方で――」
「大丈夫、裏方衣装もあるから!」
「そういう問題じゃなぁい!!」
 小百合の悲鳴が高知の空に消えていく。
 そこに現れたのは、表と裏を使い分けない男・昭民
「小百合。踊りたいかどうかじゃない。“鳴子が鳴ったかどうか”だ」
「えっ? それ、何か名言っぽいけど、意味わからない!」
 後ろでは、拓朗とジャニヤが祭りうちわでぽんぽんとリズムを取りながら見守っていた。
「なんで小百合だけ“レアスカウト”扱いされてんの?」
「たぶん、あの人たち……“踊らなそうな人”を踊らせると燃えるタイプだよ」
「営業の癖が強すぎる……!」
 そのとき、小百合の足元でポトリと一枚の紙が落ちた。
 そこにはこう書かれていた。
『よさこい仮入部届(バックダンサー特別枠)』
 ※自動的に参加となります。断る場合は高知城の石垣最上段でハトと交渉してください。
「交渉対象!? ハト!? ちょっと、待って、誰か通訳呼んでぇぇぇ!」
 ……そしてその後、小百合は――
 ピンク隊の先頭で、鳴子をぶん回しながら、踊っていた。
「……なんで……どうして私がこんなことを……」
 でもその顔は、ほんの少しだけ、誇らしげだった。
「よさこい、よさこい〜♪」
 全員が主役。全員が笑顔。全員が、揃ってバカをやれる。
 ――それが、“よさこい”。
(bon32:End)


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