第91巻 福島市:フクシマノカミの願い
福島市――
山と温泉と果物に恵まれた街。その懐の深さは、“ちょっと疲れた人がなぜか復活する”ことで有名だ。
この街には、ひそかに「願いに温泉成分を添えて叶える神様」がいる。
名は――フクシマノカミ。
彼の叶える願いは、すべて“じんわり効いてくる”タイプ。
効能は「無理がとれて、肌ツヤがよくなる」「悩みが少しぬるま湯になる」など。
いわば、“癒しの温泉系神様”である。
この日、福島市役所の観光課で働く風雅は、もう限界だった。
「桃フェスの段取りに、ゆるキャラのスケジュール、さらに温泉旅館のレビュー炎上対応……」
疲れ切って帰宅し、ふと口をついて出た。
「もう……ちょっとだけでいいから……湯けむりに包まれたような人生、来てくれ……」
その夜、彼は夢を見た。
湯気の中に浮かぶ男が、温泉饅頭を勧めてきた。
「フクシマノカミです。お疲れなら、ちょっとだけ溶かしておきますね」
「溶ける!? 俺の悩み? 意識? それとも仕事の記憶!?」
翌朝。
出勤すると、観光課の空気がなぜかふわっと硫黄っぽい香りに包まれていた。
同僚はのんびり笑っている。上司は、なぜか「いい湯加減でいこう」と言い出した。
風雅のデスクには、謎の紙が置かれていた。
“ゆるく働く免許証”
所持者は一時的にカリカリを禁止されます。
願いに温泉成分が溶け出すまで、ぬるくお待ちください。
―フクシマノカミ
「これ、なんかの呪い?」
だがその後、本当に仕事が“ぬるま湯モード”に突入する。
・突然「無理に詰め込まなくていいよ」が職場のスローガンになる
・会議中に“桃の香り湯けむりアロマ”が焚かれる(謎の設置者不明)
・そして温泉旅館から「謝罪しなくていいよ!人間だもの」という超ポジティブな返信が届く
しまいには、風雅の出勤服がじわっと湯けむり仕様になっていた(モコモコの部屋着に見えた)。
「……なんか、ツッコミどころ多いけど……肌、すべすべになってない?」
ある日、彼は観光パンフレットの編集を頼まれる。
「『心もぽかぽか、福島湯けむり人生』って……そんな人生、ほんとにあるのかよ……」
そうつぶやいた直後、隣の席にふわっと現れる浴衣姿の男。
「あるよ。願えば、ね」
「出た!! 湯けむりの神様!! 湯煙とともに来る!!」
「君はもう半分、溶けてる」
「やめて、なにその怖い表現!!」
結局、風雅は今、“温泉成分をまとった観光課員”として人気を集めている。
観光相談に来た客からは「この人に話すと癒される」と噂され、
町中では「最近、観光課が全体的に肌つやいい」と妙な評判が立っている。
風雅自身は言う。
「たしかに、願いは叶った……気づいたら、人生がちょっと温泉寄りになってた。ぬるま湯? 上等じゃん」
今日も福島のどこかで、温泉の湯気にまぎれて、
誰かの願いが、そっと、やさしく、とろりと溶けていく。
気づけば笑ってる。それでいい。
それが、フクシマノカミ流の願いの叶え方。
──完──
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