ビーチパラソル選手権
「第十五回 全国ビーチパラソル設営選手権、はっじまるよ〜!」
──夏のはじまりを告げるこの大会、全国のパラソル設営マニアたちが集い、その“さし方”の美しさ・速さ・安定性を競う、非常にニッチかつ熱いバトルである。
出場者たちは各々、自作・改造・フランス製などあらゆるパラソルを携え、真剣な顔で浜辺に並ぶ。
ちなみに私は、「町内会代表」という消極的な推薦枠でエントリーされた。
※理由:「おまえ日陰っぽいし、似合うから」
何その選び方。
審査員席には、元パラソルメーカーの設計士、南国のビーチバーオーナー、そして去年の優勝者・“逆風のカズ”が並ぶ。
「風速は毎秒7メートル、地面はやや湿り気あり。今日のコンディションはパラソル泣かせですね〜!」
実況の女性アナが異様にテンション高い。
合図とともに選手が一斉に動き出す。
砂浜を均す者、コンパスで角度を測る者、唐突に祈りを捧げる者。
そんな中、私はおそるおそる“町内会支給品”のパラソルを開けた。
──布、ちょっと破けてる。
──骨、1本曲がってる。
──そもそも骨の数が7本しかない(通常8本)。
「……絶対、負けるやつやん」
隣のレーンには“湘南の黒ヒョウ”と呼ばれるイケメンがいた。
サングラスをかけ、足でシャッと砂を蹴り、片手でパラソルを回して打ち込む。
──カッコよすぎる。
だが彼のパラソル、なぜか直後に倒壊。
「え? なんで?」
「かっこよさに集中しすぎて、風向き無視したらしいです」
アナウンサーの冷静な解説が刺さる。
私はといえば、どうにも設営がうまくいかず、パラソルはくるくる回転、風に翻弄されてフラフラ。
観客の子どもに指差されて笑われる始末。
だがそのとき、会場に響く謎のBGM。
「……え、なにこれ?」
「“逆風のテーマ”です。風が最大瞬間風速に達した合図ですよ!」
見ると、周囲の選手たちが一斉に動きを止め、パラソルを“低姿勢モード”に切り替えはじめていた。
「な、なんだその技術」
「これがプロです。“逆風対応モード”、通称“カニ歩きスタイル”」
──が、私は知らない。技術も経験も、スタイルも。
もう、どうにでもなれ。
ふと、私の目に「おばあちゃんの知恵袋」が浮かんだ。
──子どものころ、海で日陰を作ってくれた祖母が、パラソルの先に巻いていたのは……タオル。
「……もしかして、重し?」
会場の隅にあった配布タオルを急いで巻きつけ、ぐいっとパラソルを地面に押し込む。
杭のように、まっすぐ、どっしり。
──そして座る。
「……なんだこれ」
だが意外にも、それは強風にもびくともしなかった。
「なにこれ、耐えてる!?」
実況アナが叫ぶ。
「まさかの……“座り固定式”! 人体の重さで固定するという、物理直球スタイル!」
その瞬間、会場がざわめいた。
「……ちょっとすごいんじゃない?」
「わたしも今度からこれやろうかな」
──観客席で、微妙な支持が巻き起こる。
結果発表。
優勝は“元・逆風のカズ”──ではなく、なんと私。
「何が評価されたんでしょうか」
「“安全性”と“庶民性”ですね。あと“あの顔であれやるとは”ってギャップです」
──ひどくない?
賞品は「ビーチパラソル金メダル(金メッキ)」と、「町内会商品券500円」。
……帰りに八百屋で割引シール貼られたバナナでも買おう。
でも、いいんだ。
人生には、パラソルのように“風に負けない姿勢”ってのが大事なんだと思う。
地味でも、根元から踏ん張ってれば、きっと何かが守れる。たとえば、自分とか。
帰りのバス、私はパラソルを膝に抱えながら、ちょっとだけ誇らしげに海を眺めた。
そして車内アナウンスが流れる。
「次回予告:第十六回 ビニールプールふくらまし対決! 風船肺力王は誰だ!?」
──いや、もういいわ。
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