【bon17:静岡県_ちゃっきり節と“急須の舞”を編み出した者】
「さぁて皆さん、お茶の国静岡でございますよー!」
はづきが観光ガイド風に言ったその時、後ろからなにかが疾走してきた。
――ジャジャン!
「勇者、入茶ッ!」
雄大が巨大な急須のかぶり物をかぶって登場した。
「え? え? お茶の妖精なの!?」
「いや違う、俺は“茶の民の守護神ちゃっきりん”!」
「設定盛りすぎだし名前が絶妙に微妙!」
小百合のツッコミが静岡の山間に吸い込まれていく。
ここは、静岡県某所の茶畑に囲まれた盆踊り会場。
今夜の曲はもちろん、「ちゃっきり節」。軽快で茶摘みの様子を表した、まさに“静岡の心”。
そして現地の踊りの先生、明正が登場。
理知的な眼鏡男子で、手には茶筒と手帳。
「ではまず、“ちゃっきり節の心得”を説明します。全42項目あります」
「多いよ! そっから減らして!」
拓朗が叫ぶが、明正は真顔で手帳を開く。
「項目7、“回してから持ち上げる”……これは急須ではなく茶摘みの動作です。間違えないでください」
全員の視線が、静かに雄大に向いた。
そして明正が言う。
「では、踊りましょう」
音楽が流れる。
♪ ちゃっきり ちゃっきり ちゃっきりよ~
明正の動きは、まるでドローンのように正確だった。無音でも踊れるレベル。
一方、雄大はというと――
「ちゃっきりダッシュ!」
※走った。
「ダメだコイツ、もう葉っぱじゃなくて風になってる!」
「ちゃっきりダッシュ!」
――走った。急須をかぶって、踊りの列の横を全力で。
「おいィィィ! 盆踊りってそういう競技じゃないからな!?」
美琴の声が会場に響く。が、雄大は風を切りながら叫んだ。
「いや違う、俺は茶の風!ちゃっきりスピリットが俺を突き動かすッ!」
「その急須、めっちゃ空気抵抗あるよ!?」
そんななか、明正は淡々と、踊りながら言った。
「踊りとは“周囲との調和”……目立ちたいなら、むしろ沈むことだってある」
「まさかの静岡から“踊り禅”が来たぞ……!」
拓朗がつぶやく。
それでも雄大の暴走は止まらない。スキップ、茶柱スピン、急須ジャンプ。
ついには茶摘みステップを勝手に“アクロバットにアレンジ”し始めた。
「この動き、“摘む”っていうか“間引く”だよね?」
ジャニヤが静かに呟く。
小百合は、明正の踊りに合わせて淡々と振りをマスターしていた。
「なるほど、右に摘んで、左に寄せて、“お茶っ葉の心をいただく”と……」
「説明が急に詩的すぎる!」
そして輪の中心に、踊りのラインが集まり始めた。
その時、明正が初めて笑った。
「いいでしょう。あの急須の人、少しだけ、踊りに組み込みます」
「え?」
まさかの公式採用。
次の瞬間――明正がステップに合わせて雄大に合図。
「“茶葉爆裂舞”! 急須、回転!!」
「了解っちゃ~!」
ブン!
急須が回った。
会場が沸いた。まさかの“急須スピン”がキマったのだ。
「うそでしょ!? 本当にかっこよく決まった!?」
観客が一斉に拍手。そして明正のまとめの言葉。
「踊りは守るものではなく、“味わうもの”ですから」
「お、お茶の深みッ……!」
雄大は深々とお辞儀したあと――
急須の蓋が開いて、中から茶柱が立っていた。
「縁起が良すぎて落とし所見失ったぞこれ!!」
(bon17:End)
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