『見える? 見えない?ラブストーカー探偵団』
薄暗い商店街のアーケードの下、雨粒がアスファルトを叩いていた。
俺はその中で、今日も“シルエット”を追っていた。
いや、語弊があるな。正確には、「好きな人のシルエットをこっそり追いかけている、そんな親友の尾行をこっそり見守る」、というかなり屈折した立ち位置だ。
「見ろ、あれが彼女の後ろ姿だ」
興奮気味にささやくのは、大学の後輩・井ノ口。
彼は恋をしていた。相手は図書館で見かけた女性。名前も顔も知らない。彼が知っているのは「ロングコートを着た時の後ろ姿がエモい」という、切なすぎる感情だけ。
「なんで告白しないの?」
「シルエットに惚れたんだよ……顔を見て違ったら、俺、もう二度と恋できないかもしれない」
知らんがな。
この奇妙な追跡劇はもう5日目に突入していた。井ノ口は朝から彼女(仮)の出勤ルートをチェックし、夕方には帰路を確認し、ついには「背中でわかる気持ちもあるんですよ!」という名言を残し、俺を無理やり道連れにしていた。
「おい、見ろ。あの横断歩道の先だ。今日のシルエットは黒い傘とベージュのロングスカートだ。わかるか?」
「これ、もう恋ってより執着じゃない?」
「違う、純愛だ」
「じゃあそのストーカー手帳に“純愛日記”って名前つけとけ」
彼はポケットから、分厚いメモ帳を取り出した。
『観察記録:5月20日』
・午前8時15分 商店街北口 自転車で登場。
・髪型:ポニーテール(風で揺れていた)
・右肩にトートバッグ(推定:本3冊、ペンケース、謎の丸い物体)
・後ろ姿、今日もエモい。
……やばい。なんかすごい情報戦。
「今日はな、声をかけるつもりだ」
ついに来たか。
「やめとけ、通報されるぞ」
「彼女が違和感を感じてなければ大丈夫だと思う」
「いや、こっちが違和感しか感じてない」
そして、その瞬間は来た。
シルエットさんが、ふと曲がった。
井ノ口が立ち上がる。
「い、行ってくる!」
俺は止めようとした。が、止められなかった。彼は全力で走り、曲がり角を突き抜けた。
数秒後――
「うわああああああああああ!!!!」
叫び声とともに戻ってきた井ノ口。顔面は青ざめていた。
「どうした」
「ち、違った!! 違う人だった!! しかもその人、めちゃくちゃ屈強な空手の先生だった!!!」
「何が起きた?」
「俺の“あなたをずっと見ていました”って言葉に対して、“うむ”って返事されて、一本背負い食らった」
俺はしばし沈黙した後、静かに言った。
「それ、お前の恋、完封負けだな」
次の日。
再び商店街を歩いていた俺に、井ノ口が声をかけてきた。
「俺さ、目覚めた。シルエットなんかより、正面からちゃんと向き合う恋がしたい」
ほう、成長したな。
「で、どうするつもり?」
「今、気になってるのがさ、昨日投げ飛ばしてきた空手の先生なんだけど――」
「戻ってこーい!!!」
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