【bon05:大分県_宇佐音頭と宇佐神宮の神罰ギリギリ】
「神の前では――静かに!」
勇者・雄大が全力で怒鳴った。
「いや、誰が言うてんねん!!」
全員から即ツッコミが飛ぶ。ここは大分県、宇佐神宮の参道。
「だって、今回のテーマは“神聖”なんだぞ?さすがに俺もちょっと背筋が伸びるっていうか……」
雄大が珍しく神妙な顔で鳥居を仰いでいると、拓朗がそっと耳打ちする。
「お前さっき、“ここって八幡様のパワースポット!ヤバッ神ちゃうん?バズるっしょこれ”って叫んでたよな?」
「それを言うな! 今は謹んでいる!」
参道の向こう、山門の影には「宇佐音頭保存会」ののぼりが見える。神社の境内で盆踊りという、どうにもアンバランスな雰囲気。
「……あの、そもそも神様の前で踊っていいの?」
小百合がそっと聞くと、はづきが案内板を指さした。
「ここ、宇佐神宮では“神に捧げる踊り”って意味で、昔から盆踊りも奉納としてされてたみたいよ。宇佐音頭もその一つ。」
「じゃあ本当に神事なんだ……」
美琴が、珍しく汗を拭きながら深呼吸する。今日は全員、白を基調とした衣装。雄大に至っては“神楽っぽい袴”をネットで買ってきていた。
「しかし……踊りに神様って、ちょっと違和感あるよな」
ケイデンが眉をひそめると、ジャニヤがスッと手を挙げる。
「……でも、誰かが喜ぶために踊るって、どこでも根っこは同じかもよ」
一瞬、場が静まった。
だが次の瞬間、雄大が大声で叫んだ。
「よし!奉納の舞、開幕ーッ!!」
「早いわ!タイミングとか確認してからにして!」
小百合の叫びも虚しく、すでに雄大は謎の神楽ステップを繰り出していた。しかも全力。
「……これは、神を召喚するのではなく、怒らせる舞!」
啓がステージ袖でつぶやくと、空にカラスが三羽、ギャアアと鳴いて飛び去った。
「待て、やばい、俺……なにかを怒らせたかも……!」
雄大が急停止して神殿の方向に土下座しかけたそのとき――
「――そこの人!靴脱いでください!神前ですから!」
地元のおばあちゃんに一喝された。
「それやぁぁあ!!」
全員がざわつく中、雄大は急いで草履を脱ぎ、神前の石畳に土下座した。
「申し訳ございませんでしたァァァァ!」
「……いや、声がうるさいってば」
美琴が首筋を押さえてささやく。
一方、地元の保存会の代表と思しき男性――賢吾が現れた。彼は品のある笑みをたたえながら言った。
「まぁまぁ、宇佐音頭っちゅうのは、もともと“神様と一緒に楽しもう”ってもんやけん。緊張しなさんな」
「え……神様、陽キャ寄りなんですか?」
拓朗の問いに、賢吾は「神様にもいろいろおるけんな」と笑って答えた。
「そうか……つまり、これは“八幡様と仲良くなる盆踊り”……!」
雄大が立ち上がり、謎の決意を込めた目で、太鼓の前に立った。
「でも……ちょっとだけ静かにやって。怒らせるのはマジで勘弁」
小百合が手を合わせながらそっと念押しする。
やがて夕方、境内に提灯が灯り、奉納盆踊りの時間がやってきた。
始まる宇佐音頭。
その場にいた誰もが驚いた。――雄大が、めちゃくちゃ丁寧に踊っている。
いつもの爆発的な動きじゃない。腰を落とし、ステップを揃え、周囲の動きと呼吸を合わせている。
「うわ……めっちゃリスペクトしてる……!」
ジャニヤが小声で言った。
「……言葉じゃなく、こういうとこなんだろうな」
啓がうなずく。
小さな女の子が輪の中に入ってきて、雄大の隣に並ぶ。雄大はその子に合わせて、ゆっくりと手を動かす。
しゃん……しゃん……リズムに合わせて、手の鳴る音が夜空に溶けていく。
輪の外で見ていた拓朗がつぶやく。
「言葉にしないって、こんなに説得力あるのかよ……」
その夜。宇佐神宮の裏手の森に、どこからともなく声が響いた。
「……よし、許す。次行ってよし」
たぶん神様が、少しだけ笑った。
(bon05:End)
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