第60巻 宮崎市:ミヤザキノカミの願い
宮崎の空は、5月だというのに真夏の気配を先回りしていた。
湿気も少なく、サンダル率も高く、人々の心の布団もだいたい干されている。
この、空気まで「なんとかなるやろ」って言ってる街の神様――それがミヤザキノカミだ。
「オーイ、そこそこの願い事、大募集中〜っ!」
神社の前でうちわを振りながら叫ぶ神様。服装は、ほぼアロハ。額にはサングラス。
「こっちは“宝くじ当たりますように”って書いてるけど、叶うのは“スクラッチで200円当たる”くらいになるからね〜!」
「え、それなら書かんでも……」
「いやいや、200円でもうまい棒が20本よ?幸せの換金率としては高い!」
この軽快な営業スタイル、正直、神様というよりリゾート地の案内所の人である。
そんな彼の元に現れたのが、県庁勤務のまじめな青年・西田くん。
「……神様、ちょっと真面目なお願いでも……いいですか?」
「どーんと来いよ!だいたい“ちょっと”しか叶えないけど!」
「……最近、部署の空気が重くて。みんな疲れてて……」
「なるほど、職場の湿度ね!じゃあ、おれがちょっとだけ“風”を吹かせとくよ」
「え……風?」
翌日、県庁の給湯室に“なぜか”設置されていたのは――
ハワイアンBGMが流れるUSB扇風機。
誰も発注した覚えがない。けれど、回るたびに、ゆる〜い音楽とともに書類がふわっと舞い、なんだか誰も怒る気が起きない。
「……なにこれ……?」
「でも、ちょっと癒される……」
「てか、このパイナップルの柄、誰が選んだのよ……」
空気は、変わった。たしかに、“ちょっとだけ”。
その日の夕方、神様はビーチパラソルの下で缶ビールをぷしゅっと開けながら、ニヤッと笑った。
「願いってのはさ、“たった5ミリの変化”でも、毎日続けば意外と大きいのよね〜」
そしてもう一つ、神様のもとに舞い込んだのは、地元のおじいちゃんの願い。
「孫が最近、スマホばっかでワシと話してくれん……」
「……じゃあ、ちょっと“ヒント”をあげときますかねぇ〜」
その晩、孫のスマホに表示されたYouTubeのおすすめ――
「昭和の駄菓子ベスト10」。
そこに出てくる「都こんぶ」とか「わたパチ」の話に食いついた孫は、翌日こう言った。
「じいちゃん、昔の駄菓子ってさ……“ネーミングセンスおかしくね?”」
――会話、始まる。
――願い、ちょっとだけ叶う。
ミヤザキノカミの“ちょっとだけ”の願いの叶え方は、ある意味で南国特有の気候とマッチしている。
「正面突破ではなく、陽射しと風でじわじわ溶かす」タイプの対応力である。
しかし、彼が唯一、“がっつり働かざるを得なかった事件”があった。
それは、観光課の新人職員・山下彩花がうっかり口にしてしまった一言から始まる。
「今年の花火大会、神様に協賛してもらえたらバズりそうですよね〜」
「神様がスポンサー……?」
「ていうか、協賛って、金? 神様、出すの?」
翌朝、神社前に突如掲げられた垂れ幕にはこう書かれていた。
《協賛:ミヤザキノカミ》
その下、小さく──
※実際には金銭的協力はしておりません。雰囲気的応援です。
市民の反応は、まさかの好意的だった。
「おお〜!やっぱ神様ってフットワーク軽いんだな〜」
「協賛というより、“神懸かり的な応援”ってことでいいんじゃね?」
「これ、逆におしゃれかも……」
なぜか、「神様のエア協賛Tシャツ」まで作られ、即日完売。
“協賛”というワードに対する既成概念が、気候とともに溶けていった。
その夜、砂浜に並んだ観光客の前で、ミヤザキノカミは満面の笑みで言った。
「花火はねぇ、空に咲く“陽気の再放送”なんだよね〜!」
ドンッ!
打ち上がる火花。そのひとつひとつに、なんだか“ちょっとだけポカポカする”気がした。
願いとは、何かを変える魔法ではない。
“ちょっとだけ違う景色”を、笑いながら見せてくれる南国の風。
その正体が、神様であろうとなかろうと――
ここ、宮崎ではたいていのことが、
「まぁいっか」
で、片付くのである。
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