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第89巻 墨田区:スミダノカミの願い

 東京スカイツリーのふもと――
 墨田区には、地元の人しか知らない高所の神様がいる。

 その名もスミダノカミ。
 願いは高く、高く、そして真面目に叶える。
 スカイツリーとともに成長した神だけあって、常に上昇志向かつ慎重なのが特徴だ。

 ある日、押上の雑居ビルの片隅で働く若手設計士・結翔は、
 3時間におよぶ会議で心が粉砕されていた。

「せっかくの案が“夢見すぎ”って……俺なりに現実的に詰めたのに……」

 彼の設計案は、“空に向かって開く図書館”。
 しかし上司には「それ、屋根ないよね」と一刀両断された。

 がっくり肩を落としたその帰り道。
 スカイツリーを見上げて、ふとつぶやいた。

「俺の夢、ちょっとだけでいいから、高く伸びてくれよな……」

 その瞬間、空の彼方から“カン、カン、カン”と鉄骨を叩く音が聞こえてきた。

 翌朝。

 彼のPCデスクに、謎のメモが置かれていた。

 高所作業、開始しました。
 安全帯ヨシ、昇降機ヨシ、風速チェック済。
 設計、上昇方向で修正中。
 目標:精神的な高さ+3m
 ―スミダノカミより

「いや誰!? 現場監督!? 神様ってこんな現場系なの!?」

 その日から結翔の周囲には、小さな“高さブースト”が起こる。

 ・会社の椅子が微妙に高くなっている(座りにくいが気分は上がる)
 ・玄関マットに「登れ」の刺繍が追加されている
 ・自動販売機で買ったコーヒーが「特盛」バージョンになって出てくる

 さらには、なぜか通勤中のエスカレーターが毎回“上り”しか来ない

「これ、精神が上に引っ張られてるってこと!?」

 そして数日後。
 あの“空に開く図書館”の案が、別部署の企画に似合いそうだと引っ張り出され、
 突然の再評価→採用される。

「これって、まさか……」

 結翔が空を見上げると、スカイツリーの展望台のガラスに、
“ヨシ!”の文字が浮かんでいた。

「現場で確認済かよ!!」

 その夜、彼の夢の中にはヘルメットをかぶったスーツ姿の男が現れた。

「願い、上昇完了。次回は“堅牢性”の願いもどうぞ」

「次あるんかい!!」

 墨田の空の下、今日も誰かの願いが、
 少しずつ、確実に、上へ上へと伸びていく。

 急には叶わない。
 でも、図面のように丁寧に、構造的に、しっかりと。

 それがスミダノカミ流の“願いの建設工事”。

 ──完──


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