【bon21:千葉県_木更津甚句と“ドヤ顔ステップ永久機関”】
カッカッと、下駄の音が響く。
「……この音、いいねぇ。リズムに色気がある」
拓朗が、しみじみと踊りの列を眺めながらつぶやいた。
ここは千葉県・木更津市。
港町の広場には「木更津甚句」が流れ、ゆったりした節回しに合わせて老若男女が踊っていた。
その中に――ひとりだけやたらドヤ顔でキメキメのポーズを繰り返す男がいた。
「ふっ……この角度、完璧……!」
雄大だった。
「お前、なにその“ピース&ウインク&ターン”みたいな一連の流れ!?」
美琴が叫ぶ。だが雄大はキメ顔のまま、
「いや、この木更津甚句……一つひとつの節が“港の余裕”を感じさせるんだよ。だったら俺も“港の男のキメ顔”で応じるべきだと思って……」
「だから誰もそんな“甚句アイドル路線”頼んでないからな!?」
そんな中、周囲の踊り手から「お、あれ……あの人……なんか……面白いかも……」と微妙な空気が流れる。
一方、真ん中には穏やかで落ち着いた雰囲気の青年――雅詞がいた。
彼は、状況に応じて自然に順応する才能の持ち主。
そして静かに、だが鋭くつぶやいた。
「……うん。じゃあ、俺は“甚句の本筋”をやろう」
動きに派手さはない。けれど一歩一歩が「木更津の日常」を思わせる、穏やかな波のようなリズム。
「……あの人の動き、めちゃくちゃ自然で見てて落ち着く……」
小百合がぽつりとつぶやく。
そして雅詞は、雄大のドヤ顔回転を受け流すように、すっと横で呼吸を合わせ――
同じタイミングでステップを踏み、敢えて動きを“消す”。
「えっ……いま、俺、無にされた!?」
さすがの雄大も混乱。
雅詞の踊りは、まるで潮の満ち引き。
華美ではないが、ひとつひとつの所作が港町の空気を表現していた。
その隣で“ドヤ顔ループ”していた雄大、ついに異変を感じ始める。
「な、なんか俺だけ時間がズレてる気がする……」
「気のせいじゃないからね!? ずっとズレてたからね!?」
美琴の容赦ない言葉が突き刺さる。
だがここで、さらなる助っ人が登場する。
巳聖。状況に応じて態度を変えられる、いわば“柔軟の化身”。
「……雄大さん、たぶん“目立つ”ことが甚句のリスペクトだと思ってませんか?」
「ん? 違うの?」
「“合わせる”ことがリスペクトなんですよ。木更津の人たちって、港町特有の“呼吸”で動いてるから。主張じゃなくて、調和」
「……そっちの方がかっこいいな!?」
「気づくの遅いよ!?」
巳聖がそっと雄大の肩に手を置くと、その瞬間――
雄大のステップが、静かに“波”と同期しはじめた。
「……お、あれ……? なんか、俺……動きやすいぞ……?」
そして、初めて“周囲と重なる”踊りをしたとき、観客の一人が小さく拍手した。
「……いま、空気が喜んだ気がする……」
と、本人は言ったが――
「いや、観客の人な!? 空気じゃないからな!?」
拓朗が即ツッコむ。
そして踊り終わり、全員がほっと一息ついたその瞬間。
港から夕焼けが差し込み、甚句のラストが響く。
♪ 木更津 港の 夜の風……
それを聴きながら、雅詞がぽつり。
「こういう踊りって、何も足さないのが一番難しいんだよ」
「……深っ!」
「だよな! よし、俺、明日から“足さない勇者”になるわ!」
「いや、それもう勇者じゃないだろ!!」
(bon21:End)
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