第134章 呉市:クレノカミの願い
──願いは、ドンと男気ある“軍港仕様”で。
呉駅前のアーケード商店街を抜けた先に、こじんまりとした古い神社がある。
そこに住んでいるのが、クレノカミ。軍港に仕えた歴史を背負いながら、今は市民の願いを“気合と鉄分で”叶える陽気な神様だ。
「今日も筋トレと艦これじゃ!」
朝から境内でスクワットしていたクレノカミは、ふと境内を通りかかった中学生・智耶に気づいた。
智耶は、商店街の文房具屋の息子で、見た目は優しげなメガネ男子。しかし、性格は超絶理屈屋。
人間関係も、「効率と合理で最適化したい派」だったが、最近、同級生に「理屈ばっかりで面白くない」と言われ、ちょっと凹んでいた。
「神様、僕に“男気”をください。バカみたいに勢いで突っ走れるような、熱いやつに……なってみたい」
その願いを聞いたクレノカミは、全身を震わせて喜んだ。
「よっしゃあぁ!! それやぁ!! 一番ワシの得意分野やぁあああ!!」
次の瞬間、智耶の制服のポケットから“意味不明なメモ帳”が生えた。
表紙にはなぜか、“精神注入メモ”と書かれていた。
「これ、なに?」
「おぬしが理屈を唱えそうになったら、その代わりにこのメモを叫べ。“気合一発!”とか“とりあえずやってみろ!”とか、そういうやつじゃ!」
「なにそれ……論文の参考文献にできない……」
だが翌日、効果は思わぬ形で現れた。
クラスの係決めで「雑用係」に立候補した女子・江実が「でも無駄に時間とられるしなあ」とぼやいた瞬間、智耶が立ち上がって言った。
「……それでもやる価値があるんだ。“人の役に立つって、燃えるから!”って、精神注入メモに書いてあった」
クラスに一瞬、沈黙が走る。
「……智耶、今、ちょっと……男前だった」
何人かの女子がざわついた。
翌週、智耶は学級討論会でも“メモ帳の中の誰か”に乗っ取られたような発言を連発した。
「計画通りにはいかないことこそ、戦場だ!」
「理屈はあとで拾え! まず走れ!!」
結果、討論会で全票獲得。
「え? なんでみんな感動してるの……僕、自分の意見、一文字も言ってない……」
その夜、智耶は祠へ行った。
「神様、これ、人格がバグるんですけど」
クレノカミは笑った。
「大丈夫、まだ“軍港モードLv.1”じゃ。Lv.3になると“床を素手で磨きたくなる衝動”が来るぞ」
「なにその成長要素!? 人格が兵器化していくんですか!?」
「安心せい。あくまで“気合と元気”を添えてるだけじゃ。ワシはただ、おぬしの心にエンジンを点けただけじゃよ」
結局、智耶は“精神注入メモ帳”を大事に持ち歩きながら、要所要所で熱い言葉を吐き続け、いつしか“理屈も魂もある男”として、学年で妙に人気になっていった。
祠の片隅には、使い終わったメモ帳が一冊、そっと置かれていた。
表紙には、こう書かれていた。
──「魂は、理屈を超える時がある」
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