第145章 中央区:チュウオウノカミの華やかすぎる落とし物探し
銀座の朝は、なぜかシャンパンの泡のようにきらめいている。
通勤する人の靴音はリズミカル、看板のライトは前夜の記憶を残したまま、ガラス越しのマネキンたちは寝ているふりをしてこっそり春物に着替え始めていた。
その中に、異質な存在がいた。
白のスーツに金のネクタイ、ポケットチーフは季節の花──見た目は完全に銀座の熟練ホスト。
しかし、その正体は──
「私はチュウオウノカミ。中央区を、そして銀座の華やかさを陰から守る者である」
──東京都中央区の神様であった。
願いは華やかに、そしてやたら“演出過多”に叶える主義。地味な処理は決してしない。させない。許さない。
そんな神様のもとに、一本の願いが届いた。
【願い】
「お気に入りの口紅、昨日どこかで落としました。見つけてほしい(OL・28歳)」
神様、めちゃくちゃ燃えた。
「これはただの落とし物ではない。“自分らしさ”の欠片を失った一人の戦士に、光を!」
──派手すぎる落とし物探しが始まった。
午前9時、銀座四丁目交差点。
チュウオウノカミは、白手袋をはめて現場に降り立った。
「目撃情報によると、昨日の18時45分、このあたりで“バッグをあさった記憶がある”とのこと……ふむ、間違いない」
なぜかグラス片手にシャンパンを振り回す。
「さあ、この泡に“記憶”を宿して──!過去の気配を辿れ!」
神、勝手に時間遡行を始めた。見えてきたのは、本人の手が滑って口紅を落とすシーン。すごく普通。
「……なるほど、ガードレールの下か」
だが、そこにはもう“回収済み”の形跡が。何者かが拾っていた。
「落とし物バトル、ここに開幕」
チュウオウノカミは、落とし物が拾われた先を“華やかセンサー”で追跡。
たどり着いた先は──
「……三丁目のマダム・タカノの家政婦ロボが持っていった……だと……?」
そう、中央区では一部の富豪家庭に“家政婦型自動落とし物回収ロボット”が導入されているのだ。
神、ロボに接触。
「その口紅、返していただけませんか」
《拾得物の保管期間は48時間です。なお現在は“マダムの観賞棚”に展示中》
「観賞ってなに!?」
交渉の末、ロボは「バラ10本との交換」という無茶な条件を提示。
神はすかさず、“神通ローズ一瞬生成術”を使用し、美しいバラの花束を出現させる。
口紅、返却。バラ、ロボの鼻先に生けられた(花瓶内蔵型)。
午前11時、神は再び銀座に戻った。
依頼主は、ランチのついでに“ダメ元で願った”程度の軽い気持ちだったらしく、口紅を返されたときには、開口一番──
「……え、なんでパール付きギフトボックスに入ってるんですか!?」
「どうせ返すなら、最高の形で」が神のモットーだった。
しかもその口紅は、微妙に艶が増していた。
「ちょっとだけ、神通オイル入れときました」
「それ、合法ですか!?」
「神なのでノーカウントです」
午後、チュウオウノカミは地下のカフェで一息ついていた。
そこへ、銀座のとあるジュエリーショップの店員がやってきた。
「この前、指輪を落としたお客様がいたんですが……返したら、なぜかプロポーズされまして……」
「それは私が“願いの副次効果”として展開を少し調整しました」
「えっ、調整って……何を?」
「相手のスマホのメモアプリに“やるなら今だ”って書いておきました」
「それ、呪いの部類じゃ……?」
「華やかに背中を押すのが、中央区の神の務めです」
夕方。高級デパートの屋上庭園。
夕焼けを背に、チュウオウノカミは願い帳を開いた。
《本日の願い:1件
実績:1件
副産物:2件(家政婦ロボ喜ぶ/恋人が入籍)》
「……華やかすぎる」
だがそれでいい。中央区の願いは、地味では終われない。
そう言いながら、神は白手袋を脱ぎ、静かに次の願いを待った。
そのとき、空からパンケーキの写真付きハガキがひらりと舞い降りた。
「……“推しパンケーキの映え方がイマイチです”……か」
またしても、派手に叶えに行く予感しかない。
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