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第94巻 水戸市:ミトノカミの願い

 茨城県水戸市。
 納豆と偕楽園と歴史と自然の調和が売り――そんな街には、
 「願いを自然と調和する形で叶える神様」が、ひっそりと暮らしている。

 名は――ミトノカミ。

 その叶え方は一貫していて、何かが“ちょうどいいバランス”になる。
 つまり、「派手すぎず、地味すぎず」「多すぎず、少なすぎず」「効きすぎず、忘れすぎず」。
 まさに“中庸神”である。

 主人公は、水戸駅近くのカフェで働くバリスタ志望の青年・拓実。

 彼の悩みは、「こだわりすぎてお客さんがついてこない」ことだった。

 ・豆を“語りすぎて”3人に1人は途中で帰る
 ・「水戸の水で淹れる意義」について店内に4枚の説明ボード
 ・ラテアートの題材が偕楽園の梅

 ある日、彼は客が1人も来ない昼下がり、梅昆布茶を啜りながらぼやいた。

「もうちょっとだけ、受け入れられる存在になりたいんだけどな……できれば自然に……」

 その瞬間、風がそよぎ、入口のドアベルが“カラン”と完璧な音程で鳴った。

 入ってきたのは、謎の和服の青年。

「願い、承りました。自然と調和して整えておきます」

「えっ誰!? 納豆屋さんのモデル!? 着こなしが絶妙すぎて怖いんだけど!?」

「私はミトノカミ。君のこだわりに、ちょっと春の風を足しておくだけです」

 翌日から、拓実の周囲で微妙な“バランス調整”が始まった。

 ・ラテアートの梅が“ちょっとにっこり顔”に見えるように
 ・4枚の説明ボードが“1枚に折りたたまれた要約版”にすり替えられている
 ・コーヒー豆の種類説明が「3行で納まる」よう神の力で調整

 結果、常連客の中学生が「なんか最近わかりやすい」と言い出し、
 口コミが「前よりちょっと親しみやすくなった」とじわじわ拡散。

 ついには近所のご婦人から「ここのコーヒー、胃にやさしい」と高評価。

「……俺、変わったのかな……?」

「うん、変わってないよ。でも“ほどよく整った”んだ」

「出たな!! ミトノカミ!! 相変わらず空気みたいな出現!!」

「自然と調和とはそういうもの。全体を見て、力を抜くことが“ちょうどよさ”の第一歩」

「急に良いこと言う~~~!!」

 現在、拓実のカフェは“ちょっとわかりやすくなった本格派”として、地元民に親しまれている。

 梅の形をしたクッキーも人気で、
 店内には「納豆と珈琲の境界線を見極める研究ノート」まで置いてある(これだけは誰にも読まれていない)。

 彼自身はこう語る。

「尖ってた頃の自分も好きだけど、“ちょうどよくなった今の俺”の方が……たぶん、人に合いやすいかなって」

 今日も水戸の風は穏やかで、
 誰かの願いが、過不足なく、静かに満たされていく。

 ミトノカミは言葉少なく、そっと微笑んで、
 偕楽園の方角へと、風に乗って消えていった。

 ──完──


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