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第12話「『三角定規とは何か』校内講義開催」

「今日は三角形の面積について復習しましょう」
 数学の授業中、先生が黒板に簡単な図形を描きながら言った。
「三角形の面積は“底辺×高さ÷2”ですね。では、次の問題を解いてみましょう」
 教室内はカリカリとシャープペンの音だけが響く。
 ——ただし、ある一点を除いて。
「む、これは……この道具……!」
 静かに震えていたのは、もちろんアルキメデスだった。
 —
 教師が黒板横のマグネット付きホワイトボードから取り出したのは、三角定規。
 いわゆる45度-45度-90度と、30度-60度-90度のプラスチック製のそれである。
「この形状……この固定された角度……!
 なぜ、この道具は“三角”にして、“二枚一組”なのだ!?」
「そこ?!」
 吉澤が思わず突っ込んだ。
 —
 授業が終わると、アルキメデスはそそくさと三角定規を手に取り、廊下へと走り去った。
 その姿を見た松井が、嫌な予感を覚えながら後を追った。
 —
 数分後——
 校内放送室のスピーカーから、見慣れない声が流れる。
『皆の者、わしである。アルキメデスである』
「またかよ!!!!」
 職員室で教師陣が頭を抱えた。

『本日わしは、皆に“定規”という道具の真なる意味を問いたい。
 特に“三角定規”に関してである』
 — 校内放送室から響くその声は、理路整然としており、異様に熱い。
 —
『そもそも、なぜこの角度である必要があるのか。
 45度と90度、そして30度と60度と90度——この組み合わせは、“直交座標系”において優れておるのだ!』
『この道具を用いれば、複雑な角を一瞬にして導き出せる。
 すなわち、三角定規とは“知の圧縮形態”である!』
 —
「……めっちゃマニアックな講義始まったな」
 松井は廊下で呆れつつも、放送を止めるタイミングを見失っていた。
 —
 放送室の外には、徐々に人が集まってきた。
「これって……聴いていいやつ?」
「理科部の部長が“聴け”って言ってた」
 —
『さらに申すならば、この“三角定規”の由来は、古代バビロニアの数学にまでさかのぼる!
 わしの時代にも似た道具はあったが、透明ではなかった……つまり、これは“進化の産物”なのだ!』
『これは道具ではなく、英知の結晶である!』
 —
 黒板の前で、教師が苦笑しながらつぶやく。
「今日はもう、ホームルーム中止でいいかな……」
 —
 その後、理科部室では、吉澤が手作りの張り紙を掲げていた。
《緊急講義:アルキメデスによる「三角定規の歴史と未来」
 本日昼休み、理科室にて開催 ※自由参加》
 —
 昼休み、理科室に集まったのはたった3人。
 だが、アルキメデスは誇らしげだった。
「来てくれたか。“わしの定理”に耳を傾けようとする者が、ここにもいた」
「いや別にアルキメデスさんの定理じゃないんだけどね……」
 —
 講義は、幾何学の成り立ち、定規の発展史、そして“角度と魂”の関係性にまで及んだ。
 途中で一人抜け、二人抜け、
 最後に残ったのは、なぜか理科準備室の白衣を着た用務員のおじさんだけだった。
「……いやあ、面白かったよ。久しぶりに脳が熱くなった」
「そうか、ならばまた語ろう。“分度器”についてもな!」
「お、おう……」
 —
 その夜のノートには、こう記されていた。
《道具とは何か》
 ・三角定規は、知識を“手に取れる”形にしたもの
 ・道具は、思考を助けるための杖である
 ・今日、わしは三角定規と向き合った
 ・だが、今度は“分度器”と語らねばなるまい……
(第12話 完)


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