タマル(ハムスター)は見た!
タマルはハムスターである。
──が、ただのハムスターではない。
彼は“観察”と“記録”を何よりの生きがいとする、小動物界の名探偵……いや、町内スキャンダル特化型・非公認情報収集員だった。
「チッチッチ……人間というやつは、ケージの前だけ人格を変える……」
今日もタマルは、頬袋にヒマワリの種を詰め込みながら、人間界の“仮面”を暴こうと決意していた。
■観察対象その1:飼い主・坂本真理子(33歳・在宅デザイナー)
表向きは「癒し系ふんわりOL」。
SNSでは#タマルくん大好き♡ を連発しているが、実際は──
「この納期が地獄すぎるんですけど!? タマル、代わりに描いてくんない!?」
モニターに向かって連日発狂。部屋中、カフェインとエナジードリンクの空缶が転がっている。
彼女が“映え”のために撮る写真は、全て加工とフィルターの魔術で構成されている。
「チッチッチ……人間は“ふんわり”より“ギリギリ”で生きている……」
タマルはホイールの中でくるくる走りながら、心のメモ帳に書き記した。
■観察対象その2:真理子の弟・達也(高校二年)
母に「たまには姉ちゃんの部屋に顔出しなさい」と言われ、週に一度やってくる。が──
「タマルぅ~! お前しか俺の味方いねぇよ……」
彼は毎回ベッドに倒れ込み、青春の愚痴をハムスター相手に1時間語る。主に「告白失敗」「テストの順位が爆下がり」「体育祭でズボンが破けた」等、バリエーションは豊富だが全て軽くてぺライ。
「チッチッチ……若さとは、痛みとともにある……そして、なぜ話し相手が俺なんだ……」
タマルは観察を続けながら、心の中で「青春あるある大賞2025」の選考を開始する。
■観察対象その3:謎の配達員・小西
「ピンポーン」
毎日ほぼ同じ時間に現れ、なぜかインターホンを2回押し、なぜかタマルにウインクして帰っていく男。
ある日、真理子が席を外したとき、彼は言った。
「やぁ、君が噂の……タマルくんか。ふふ、情報はすべて揃ってる」
……おい、なんの情報だ。
「安心したまえ。僕は敵ではない。“味方側の観測者”さ」
──何者だ。
お前、絶対Amazonの人じゃないだろ。
タマルは後に彼が近所の“自称・未来予測士”であると突き止めた。チラシによれば「ペットの視線を通じて人間の運勢を読む」らしい。
なんだその職業。なんで俺を経由する前提なんだ。
「チッチッチ……俺は誰にも読まれない……読まれるのは飼い主のほうだ……」
■観察対象その4:夜中に現れる“赤い影”
これはある晩、深夜2時過ぎに目撃されたもの。
真理子が寝たあと、玄関のドアが開いた音がして、赤いレインコートを着た人物が台所でなぜか「長ネギ」を持って踊り出すという怪現象。
しかも踊りが終わると、何も言わずにドアを閉めて帰る。
──事件か?
──いや儀式か?
──まさか、お前が幽霊なのか?
真理子に報告しようとケージの中で猛烈にホイールを回してアピールしたが、「うるさーい!」と水を足されて終わった。
「チッチッチ……人間は、最も重要な報告をスルーする……」
──そんなこんなで、タマルの観察記録は日々充実していった。
だが、ある日。
飼い主・真理子が何気なくつぶやいた。
「ねえタマル。あんたってさ、ただのハムスターじゃない気がするのよね……見られてる感じするもん。いつも、見抜かれてるっていうか……なんかこう、魂の奥を覗かれてるっていうか……」
……ドキィィィッ!
タマル、動揺。久々に。
「まさか……タマルって、地球外知的生命体とかじゃないよね?」
おい、それは違う。
俺は地球生まれ地球育ち、ただの観察好きなハムスターだ。
──ただひとつだけ、君に言えることがある。
それは、
「チッチッチ……人間って、見てると飽きないよな」
タマルは今日も、ホイールを回すふりをしながら、ケージ越しに“この世界”を記録している。
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